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多摩丘陵の里山に住みなおす

11月1日に新築した家を引き渡してもらい、翌日に引っ越すことになっています。
これまでに私は、1年間だけ母の実家にいたことはありますが、それ以外はずっと借家と賃貸マンション・アパート暮らしだったので、初めて一軒家に住むことになります。

今住んでいる公営住宅は低所得者層向けであるため、NORAの職員として働いているときには良かったのですが、大学に職を得ると移転するよう催促され始めました。
どこに引っ越すか考えなければいけない状況になったとき、はじめて家を建てるという選択肢が浮かんできました。

今のマンション暮らしに対する最大の不満は、庭がないことです。
庭で野菜を作れない、生ごみを土に埋められないという環境は、とても不便で貧しく感じられます。
引っ越しを検討していくなかで、私は庭で家庭菜園をやりたいと思うようになりました。ただ、ブームに乗じているだけのような気もしますが。

家を建てようと思っても、気に入った土地が見つからなければ何も始まりません。
そこで、2年半くらい前から時間のあるときに、売りに出されている物件を見て回ることにしました。
その際、以下の条件を念頭に置いて探しました。

  1. 近くに里山があること、できれば多摩丘陵のなかが望ましい
  2. 野菜づくりを楽しめる庭を確保できること
  3. 仕事や活動の場である多摩や横浜まで遠くないこと
  4. 鉄道の駅へ歩いて行けること
  5. 車よりも歩きが適した町であること
  6. 適度にでこぼこ、ぐちゃぐちゃっとしていること
  7. そしてもちろん、安いこと


1.2.3.は里山保全にかかわっているから、4.5.は車嫌いだから、6.7.はいい加減でけちだから、それぞれ出てきた必要条件です。

1年以上の時間をかけて、昨年の初夏に、ようやく納得できる土地を見つけて購入しました。
そこは、昭和30 年代に造成開発された住宅地の周縁に位置し、都市ガスも下水も通っていませんでしたが(竣工までに都市ガスが通りました)、北側は雑木林と隣接し、南に向けて開けている土地です。
もちろん、この雑木林は多摩丘陵の里山です。

家を建てるときには、建て売り住宅を購入する、工務店に設計と施工をお願いする、建築士に設計・監理を、工務店に施工を別々にお願いするという3つの方法があるでしょう。
このうち、私の家は最後の3つ目のやり方にしました。

価格の安い土地を探していると、簡単には家を建てられないようなあやしい物件がヒットします。傾斜のある土地、所有権が複雑な土地、法規上は家を建てられないはずの土地など。
かりに安く土地を購入しても、家を建てるのにかかるお金が多額であれば、トータルでとても費用が必要になってしまいます。
そうした見込みが立てられなかったので、土地を探しているときから建築家の友人から助言を求めていました。
その流れのなかから、土地探しの相談に乗ってもらっていた友人に設計をお願いすることにしたのです。

家をどうデザインするのかを考えるとき、最初に基本的なコンセプトを整理しました。
きちんと箇条書きしていたわけではありませんが、ふり返ってみると、次の点を大事に考えました。

  • 周りの自然を生かすこと
  • エネルギー消費を抑えること
  • 木の良さを生かすこと
  • シンプルな間取り、仕上げとすること
  • 裸足で歩いて気持ちよいこと

初めの段階で、こうした基本的な考え方を友人に伝えたところ、しばらくして、ラフな設計図が出てきました。
それは、菜園となる南庭と繋がるように1階に食堂・テラスを、裏山の雑木林を取り入れるように2階の居間・書斎を配置するというものでした。つまり、ムラ-ノラ-ヤマの里山モデルを当てはめるならば、1階はちっぽけなノラと、2階は隣接するヤマとの連続性を生かした家とするというものです。
初めて示された提案図を気に入ったので、その後の打合せはこれをベースとして進められました。
そして、生活の利便性を高める、防犯機能を高め、私の図書を所蔵して・・・などの要求を満たすように、設計を詰めていきました。

ところが、いろいろと要求していくと、当然ながら、施工費が高くなってしまいます。試しに見積もりをとってみたところ、予算を大幅にオーバーしてしまいました。
そこからは、苦しい決断の連続です。
要望を取り下げたり、質を下げたり、住んでから工事することにしたりして、時間をかけて打合せしながら、身の丈に合ったレベルにしていきました。

いざ、工務店と工事請負契約を結んでからも、工事の進行とともに決めていくことがあります。
コンセントの位置・数、造作家具の仕様・色、天井・壁・床の素材・色などについては、おおまかには仮決めしていましたが、施工が進むにつれて決定していくことになります。
そのほかにも、ここには書くまでもない、あるいは書くことのできないようなトラブルがいくつか発生したものの、どうにかこうにか竣工までこぎ着けました。

しかし、里山の保全と同じく、家づくりも、その後の維持管理や創造が必要です。
実際、庭には赤茶けた土がひろがっているだけで、これから手を入れていかないことには、野菜を作ることはできません。
面倒なことですが、それだからこそ、ここに私と家、私と庭との間に深い関係が生まれるのでしょう。
きっと、私はこうしたかかわりの中から、自分の立ち位置を確かめたいのだと思います。

物心ついたときから多摩丘陵で育った私ですが、この里山に住むことをあらためて選びなおしたような気がします。

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