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『雑草と楽しむ庭づくり』

「趣味は何ですか?」と尋ねられると、答えに窮したものでした。
学生の頃は、よく音楽を聞き、しばしば映画や芝居を見たりしていたので、音楽鑑賞、映画・演劇鑑賞と答えることが多かったのですが、最近は、このために時間を割くことがめっきり減りました。
費やす時間の長さという点では、読書や旅行が適当なのでしょうが、趣味といえるほど、こだわって楽しんでいるわけではありません。
だから、「無趣味なんです」とか、「NPOかな」などとお茶を濁しながら、次の話題へと話が変わるのを待っていたものです。

ところが、昨年の春、庭に数本の木を植え、小さな菜園を作ってからは、「庭仕事(庭いじり)が趣味」と言うようになりました。
しかも、昨年よりも今年の方が、さらにこの趣味に深く填っているように感じています。

いろいろと失敗がありました。
シンボルツリーとして期待して植えた株立ちのクロモジは、4本立ちのうち1本を残して枯れてしまいました。
トマトも4つの株のうち、よくできたのは2つでした。
サトイモはあまり大きくなりませんでした。
しかし、いったん枯れかかったブロッコリーが元気になって、大量の恵みをもたらしてくれたり、虫に食べられて死んだも同然のように見えた白菜が、
その後復活して、結球してくれたりと、私の想像を超える生命力を発揮することがあります。

こういう経験から、「こうすればうまくいく」という自分の考えがいかに浅はかであったかを教えられ、育てている野菜は、あたかも人間の子どものように、本質的には私のコントロールの及ばない命ある生きものであると痛感させられました。
しかし、この感触は奢りを打ちのめされるというようなネガティブなものではありません。
そうした枠組みを軽々と超えられたときとは、自分の固定観念を捨て去ることができるチャンスです。
その機会をうまく捉えられたとき、そこには自由が広がるような感覚があるのです。

振り返ってみると、昨年の夏頃までは、ホームセンターで土や肥料、それに苗を購入し、育てて収穫できるだけで満足でした。
自分の庭で野菜を育てることが初めてだったので、それを実践することが単純に楽しかったのです。
しかし、冬を迎えた頃には、土+肥料+苗=野菜のような、こうすれば確実に野菜ができるという関係は、今ひとつ面白みに欠けると思うようになっていました。
畑という格好をしているものの、発想としては植物工場とあまり変わらないように思えたのです。

そんなときに出会ったのが、今回取り上げた『雑草と楽しむ庭づくり』と同じ著者による虫といっしょに庭づくりでした。
これらは、野菜づくりのための本ではありません。
庭で見かける雑草や虫が写真付きで解説され、これらとの付き合い方のコツが書かれています。

雑草も虫も、収穫を減らすマイナス要因となります。
もし、収穫量にこだわるならば、これらは目の敵と思うかもしれません。
しかし、私は趣味で庭いじりを楽しんでいるので、これらを退治しようと躍起になるのは違うなと思うようになりました。
それよりも、雑草や虫も、野菜と共に畑で育つようなやり方を志向するようになっていったのです。
そうすると、雑草や虫のことをよく知りたくなります。
あまり、悪さをしないものは、なるべく残すようにしています。
この本の中で勧められていたのですが、基本的には、根っこから抜くことはなく、丈高5cm程度に低く刈り込んでいます。
このため、昨年と比べると今年の畑には、雑草が多く生えています。
畑のなかに、お目当ての野菜だけが生えているよりも、雑草の中に野菜が育っている方が、見た目が賑やかで楽しいです。

今年は、昨年に比べると、収穫量が減るかもしれません。
でも、野菜を売って生活しているわけではないので、それでもよいのです。
それよりも、畑にいろいろな生きものが集まり、共に生きられるとしたら、かなり面白いと思います。
最近は、少し長期的な視点を持って、数年後にバランスの取れた生態系が畑の中にできたらいいなぁと思い、庭いじりに興じています。
きっと、その生態系から得られる自然の恵み、すなわち、お目当ての収穫物は、美味しいに違いないはずです。

曳地トシ・曳地義治(2011)『雑草と楽しむ庭づくり』築地書館.

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