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自主性と自律性をベースにした参加のしくみ

NPO法人よこはま里山研究所(愛称NORA)は、都市に生活する人びとの暮らしと里山との距離を近づけることで、身近な自然の多様性を高めながら、生命のつながりが感じられる豊かな社会をつくることを目的とした団体です。

2001年に法人を設立してしばらくは、行政からの委託事業を順調に受け、常勤職員を安定して雇用できたのですが、6年目から受託事業収入が激減し、2年続けて大幅な赤字を出しました。そこで、自主事業を強化することにより、行政に依存しない組織を目ざそうと考えました。しかし、事態を打開するには、当時の団体を実質的に動かしていた事務局職員が経営にも参画し、組織をリードしていく覚悟が必要と思われました。それは職員にとって過大な要求だったため、自主事業拡大による自立化という方向性は断念しました。

経営難を契機に組織体制を見直しし、自立性を高めたプロジェクト制に

ここで、NORAは再生を図るために大きく舵を切りました。まず、運営にかかる固定費を削減するために常勤職員を置かず、組織を維持するための事務仕事を見直し、多くの会員で分担することにしました。また、職員が働く事務所だった空間は、会員有志が家賃を一部負担して運営するフリースペース「はまどま」(横浜の土間という意味)に変わり、仲間が集い、やりたいことを実践できる場にしました。さらに、受託事業に追われて自主事業を展開できていなかったことを反省し、会員の提案により気軽に事業を実施できるプロジェクト制を採用しました。ただし、事務局職員がいないので、プロジェクトリーダーが中心となり、独立採算制の原則のもと、企画・運営を取り仕切るように求めました。その際、プロジェクトが団体の目的とかけ離れないように、事業を5つ(ヤマ、ノラ、ムラ、ハレ、イキモノ)に整理し、この中に各プロジェクトを位置づけるようにしました。

小さなプロジェクトで多くの人が参加できる場を作り出す

このような改革を経て、2008年以降のNORAは大きく変わりました。たとえば、設立後5年間の会計規模は約2,000万円でしたが、最近5年間は約500万円と小さくなりました。一方、運営に参加できる会員数が15名から約100名に増えたほか、活動を支える100名強のリピーターがいます。また、改革前は、自分の所属団体をNORAと名乗る人は常勤職員数名でしたが、今では15人程度がNORAの肩書きで活動していて、ウェブサイトの更新やメールマガジンの編集などの情報発信も分担しておこなっています。さらに、月に数人~十数人が集まる小さなプロジェクトを平均して2日に1日以上実施し、年間1,500人程度の会員・会友が参加する場をつくり出しています。

組織のための個人ではなく、個人のための組織であることをベースに運営

こうした組織運営は、NORAが守りたい里山をモデルとしています。理想的な里山では、身近な地域の資源が持続的に活用され、豊かな生物多様性が保全されてきました。だから、NORAでは持続性と多様性を大事にしているのです。

ここで持続性とは、日常的な活動を継続しつつ、無理のない範囲で楽しく活動を展開すること。規模の拡大を目ざすのではなく、活動それ自体を充実させることです。一方、多様性とは、さまざまなメンバーの知恵や技を生かし、個人の意欲を大切にしながら、互いに互いを生かし合う関係をつくること。一人ひとりが主体的に関わることで、自分の成長を感じられることを優先しています。

このようにNORAは、上意下達で「選択と集中」に重きを置く組織マネジメントとは異なるかたちで、仲間を信頼し、その自主性を尊重し、自律的な活動を促すこと、組織のための個人ではなく、個人のための組織であることをベースに運営するよう心がけています。

松村正治(2016)「持続性と多様性に価値を置き、自主性と自律性をベースにした参加のしくみ~よこはま里山研究所の場合」日本NPOセンター編『知っておきたいNPOのこと4【参加編】―7つの変化の実践事例』16-17.


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