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森林ボランティア体験という生態系サービスの可能性

本発表では、市民による里山保全・森林ボランティア活動の経緯をたどり、現状と課題を確かめたうえで、これからの人びとと森林の関係性について、ボランティア体験という観点から考えていることを述べる。考え方としては、森林ボランティア体験を生態系サービスの1つと捉え、この体験の意義を掘り下げ、その可能性を引き出すにはどうすべきだろうかというアプローチをとる。そして、この問いに対して、ボランティア体験のなかにある教育的な価値を高めるという方向で議論したい。

話題1 森林ボランティア活動のこれまで

首都圏近郊の森林ボランティア活動には2つの流れがあり、里山では舞岡公園(横浜市)での谷戸の自然と文化を生かした公園づくり(1983年)から、人工林では雪害被害時の市民による林業家支援(1986年)から始まった。1990年代には、全国雑木林会議(1992年)、森林と市民を結ぶ全国の集い(1995年)、森づくりフォーラム設立(1996年)など、全国に活動が拡がり、団体のネットワーク化が進んだ。1990年代後半には、森林づくり活動がブームとなるとともに、原生自然に加えて雑木林の価値も認識されるようになり、生物多様性保全や里山保全のムーブメントが起きた。2000年代には、林野庁に森林ボランティア支援室が設置され(2003年)、新生物多様性国家戦略(2002年)で過少利用による里山の危機が示され、SATOYAMAイニシアチブ(21世紀環境立国:2007年閣議決定、生物多様性条約締約国会議:2010年名古屋COP10)が海外に発信された。さらに2013年からは、森林・山村多面的機能発揮対策交付金(2013年~)が始まった。

1980年代に市民運動として始まった森林ボランティア活動は、21世紀には行政による支援が手厚くなってきた。この間、活動は多様化したが(環境教育・普及啓発、都市山村交流・まちづくり、搬出や販売に関わるプロ化)、高齢化や活動資金不足などの課題はむしろ深刻化している。

話題2 課題解決に向けたNORAの取り組み

若い世代がボランティアに参加できるように、「よこはま里山レンジャーズ」プログラムを行っている(2002年~)。森林に関心はあるが高齢者中心の団体へは入りにくい若者が気軽に参加できるように、週末の半日程度の社会貢献にレジャー感覚で参加できるようにしている。ボランティア登録者(約2,200人、レンジャーズプロジェクト:NPO法人自然環境復元協会)に森林づくり活動を紹介し、活動日に10人ほどを引率している。また、イギリスを参考に、若手コーディネーター育成講座も開催している(2015年~)。

ボランティアからシゴトへ

雇用や将来が不透明な社会状況の中で、『里山資本主義』が話題となったように、無償のボランティアより仕事にニーズがある。若い世代の環境意識は高く、自然と関わる自立的な暮らしを求めている。多摩丘陵でも、自給的な暮らしや、起業などのソーシャルビジネスの動きがある。

公から民へ

2000年代は、公的な緑地に市民が活動する場を求めていたが、公園は火や刃物の使用制限、書類等の提出などの制約が多く、現在は、民有地で信頼関係による活動モデルの構築を模索している(自然学校、木工品の販売など)。

「里山を活かす仕事づくり」の展開と支援

かつては里山で農家が食やエネルギーを得ていたところに、1990年代には市民が生きがい、やりがいを求めてボランティア活動に参加した。しかし、高齢化が進行して持続性に課題が生じ、2010年代以降は、里山の資源・空間で、社会的企業家や新規就業者が、新しい生態系サービス事業(農業、林業、環境教育、健康・福祉、まちづくりなど)によって、森林の多面的機能の発揮をさせ始めている。働き方が、会社から個人、組織からチームへ変わってきている。

「まちの近くで里山をいかすシゴトづくり」(2016年~)を支援するプラットフォームとして、定期的なイベント開催(森林の価値を高めるアプローチ:ツリークライミング、森のようちえん、森林環境教育、木育、CSR支援など)、テーマを決めたセミナー開催(参加者15人程度)のほか、活動を支える理念づくり(稼ぎに流されない仕事)、人・情報が集まるサイトづくり(WEB「里山コネクト」)をおこなっている。

話題3 ボランティア活動を通じた体験の学び

市民参加による森林づくり活動のさまざまな蓄積が活かされていない。森林づくりの安全技術・習得制度(森づくり安全技術・技能全国推進協議会)、生態系管理(横浜市の森づくりガイドライン)、また体験活動を学びに変える教育サービスの工夫もある。大学では、多様な人々と仕事をしてゆく社会人基礎力(経済産業省、2006年)の育成が求められている。ボランティア活動は、社会人基礎力(前にふみ出す力、考え抜く力、チームで働く力)の育成に活かせるはずだ。体験と学習プロセス(事前学習、体験、面談やまとめを通した発信など事後学習)を通じ、体験の言語化や統合を開発する余地は大きい。

まとめ

森林ボランティアの蓄積は、継承する価値がある。森林づくりへの貢献から、良質のボランティア体験や環境教育として価値が見いだせる。

報告「森林ボランティア体験という生態系サービスの可能性」,森林教育交流会成果発表会(森林総合研究所多摩森林科学園), 2018年12月3日


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