「無人島」と聞いて最初に思いついた本は、吉村昭『漂流』(1976年、新潮社)です。江戸時代に、今の高知県を出た船が難破して、はるか東に流され伊豆諸島の鳥島に漂着、その後、長い無人島生活を送った人の実話がもとになっています。私は、吉村昭さんの徹底した史実調査に基づくノンフクション小説が好きで、歴史を掘り下げて学ぶ際のテキストにしています。
鳥島は、アホウドリなどの海鳥の大繁殖地として知られていましたが、羽毛・食肉の目的で乱獲され、一次は絶滅が心配される状態になりました。『アホウドリを追った日本人―一攫千金の夢と南洋進出』(2015年、岩波書店)は、この鳥を追って絶海の孤島へと向かった人びとの歴史を丁寧に描いたものです。なお、鳥島では1933年にアホウドリの捕獲が禁止され、その後、保護活動が進められて、近年は順調に個体数が増加しています。
アホウドリの繁殖地としては、中国や台湾が領有権を主張している尖閣諸島も有名です。この無人島をめぐる日中・日台関係を読み解くには、新しい冷戦と言われる米国と中国の軍事的な対立を理解する必要があります。トランプ大統領の政策顧問であるピーター・ナヴァロの『米中もし戦わば―戦争の地政学』(2016年、文藝春秋)を読むと、近年、日本の南西諸島に自衛隊が続々と配備されている背景がわかります。国境付近の離島は軍事的に重要であり、人が住んでいない無人島は要塞化されやすい条件を抱えています。国の平和について考えるとき、中央の政治状況に関心を持つと同時に、周辺の島じまで起きていることにも目を向けることが大事だと思います。
(恵泉女学園大学図書館報の特集「無人島で読む、無人島を読む」コラム草稿)