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荒木伸二監督『人形の町』の公開前に

9/4(金)公開の『人数の町』で監督を務めた荒木(伸二)は、大学で同じクラスだった。

入学式前のオリエンテーション合宿で、初めてまともに口をきいたのが荒木だった。
目的地に向かうバスの中での自己紹介で、僕は音楽を聴くのが好きで、特にザ・スミス(The Smiths)がお気に入りだと話した。そのことを彼は覚えていて、合宿先でぼーっと一人でいたときに、声を掛けてくれたのだった。

そのときの安堵感は、今でも覚えている。
それは、友だちができそうだという気持ちでもあったが、それよりも、へなちょこで軟弱なスミスを好きでいいんだと思えたことが大きかった。

当時の僕は、自分が好きなものを人に好きだと伝える自信がなかった。50人近くと初対面する自己紹介で、あえてザ・スミスが好きだと言ったのも、ほとんどの人が知らないだろうからと、逃げた言い方をしたのだと思う。

しかし、荒木は自分が心を惹かれるもの、美しいと感じうものを、有名無名にかかわらず、独自の視点から捉えて評価し、素直な言葉で周囲に伝えていた。
二十歳の頃に彼と出会い、そばにいながら学んだものは大きかったように思う。

私のPCのデスクトップ画面は、もう長いこと、スミスのアルバムジャケットである。
当時を思い返すと、この画面は、このときにつかんだ自信を手放さないという意思の現れに思えてくる。

荒木とは25年以上会っていないはずだが、『人数の町』は彼の初長編映画なので見に行く予定だ。
それは青年時代の記憶を呼び覚ますことになりそうで、恥ずかしいような、心が躍るような、怖いような、なんとも言えない気持ちだ。

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