※新時代アジアピースアカデミー(NPA)第8期コース18概要より
近年、異常気象が頻発し、グローバルな環境危機がリアルに感じられるなかで、私たちはどのような社会を目ざし、その「ありたい社会」に向けてどのように行動すればよいのでしょうか。未来の社会を考えるためには、過去の歴史に学ぶことが求められます。さいわい、自然を収奪しながら経済成長を果たしてきた戦後の日本社会のなかで、多様ないのちと共に生きる社会をつくろうと試みてきた環境運動の歴史があります。そこで本コースでは、そうした環境運動の当事者をゲストに招き、その人の思索と実践について試行錯誤の経験を共有していただきます。Part1では1970-80年代に始まり、その後も影響力を持った環境運動として、有機農業運動、産直運動、里山保全運動などを取りあげます。
曜日・時間:隔週火曜日19:00-21:00
開催方法:オンライン開催
コーディネーター:松村正治(環境NPO代表、大学教員)
第1回 みかんを通じて水俣と出会ってもらいたい ― 父のこれまでと娘のこれから
開催日:2022年11月1日(火)19:00-21:00
語り手:大澤忠夫×大澤菜穂子(からたち)
概要:水俣病事件で海から陸に上がらざるをえなかった漁師たちは、生きるために甘夏みかんの栽培を始めました。「他人に毒を盛られた者は、他人に毒を盛らない」。無農薬のみかん栽培を始めた、漁師でもあり水俣病患者のその叫びに共感し、京都から水俣に移住した私の両親は彼らのみかん販売をすることに決めました。あれから45年の月日が流れ、現在は私たち次の世代が水俣のみかん販売を続けています。私の両親はなぜ水俣に住み着き、何を感じながら水俣のみかんを売ってきたのか。そしてなぜ私たちはそのバトンを受け取ったのか。父と娘の掛け合いトークをお届けできたらと思います。
第2回 空港反対運動から生まれた有機農業の歩み―三里塚から持続可能な地域づくりを考える
開催日:2022年11月15日(火)19:00-21:00
語り手:平野靖識(有限会社三里塚物産・三里塚歴史考証室)
聞き手:相川陽一(長野大学)
概要:「日本の空の玄関口」と言われる成田空港は、地域住民に事前の説明なく、強引な手法で建設された歴史を持ちます。空港が建設された地域では反対運動(三里塚闘争)が長く続いてきました。多くの人が傷つき、苦しむ中で、この地に暮らし続けようとする農家は「運動にとりくめば農業がおろそかになり、農業にとりくめば運動がおそろかになる」課題に直面しました。この課題を解決するため、いまから約半世紀前に有機農業が導入され、堆肥を自家製造する運動がはじまりました。そこには「水俣病を生み出した企業の作った肥料を自分たちが使って良いのか」という問題意識もあったと聞きます。平野さんは、都市部から支援者として成田に移り住んで、有機農産物の加工・流通の拠点を築き、社会的企業という言葉がなかった時代から、反対運動にとりくむ農家の経営を支援する事業を続けてきました。長年、森づくりにも取り組んでいます。いま成田は、有機農業が盛んな地域となり、都会から農村に移り住んで農業を営む若者も増えています。第2回では、三里塚の有機農業史を平野さんとともにたどりながら、自立した地域や持続可能な地域とはどのようなものなのか、参加者のみなさんとともに考えていきます。
第3回 「たまごの会」で見た夢
開催日:2022年11月29日(火)19:00-21:00
語り手:明峯惇子(トトロの畑)
概要:明治以後の近代化の手法は、国という大きな枠組みのために人々をひれ伏させる暴力的なものだった。その大枠の中で進められた重化学工業重視、経済成長礼賛の政策は、水俣病、後には福島第一原発事故に象徴される環境破壊をもたらした。
1960年代後半に、その仕掛けのおかしさに気づいた一人として、私は食べもの生産に自分も関与することで、大きな枠組みに飲み込まれない生き方を模索した。300世帯の都市民が、自分たちの思いを形にしようとした「たまごの会」の試みは、その後の私の暮らしの原点になった。あれから50年あまりたった今、一坪の土地も所有しないまま、ゆるい人とのつながりの中で、地球の一画を耕す暮らしを続けている。「たまごの会」、現在「暮らしの実験室」と改名している会誕生の経緯とその後の歩みを話したい。
第4回 小水力に取りつかれて40年―反原発・自然エネルギー実験の場「水車むら会議」を中心に
開催日:2022年12月13日(火)19:00-21:00
語り手:中島大(小水力開発支援協会)
概要:今から約40年前の1981年、有機農業・適正技術・反原発などをテーマにしていた学者や市民団体が「水車むら会議」という団体を立ち上げ、静岡県藤枝市内に運動のシンボルとなる水車を作りました。私は翌年夏の工事に参加したことがきっかけで、それ以来、小水力発電、再生可能エネルギーに関わる市民運動と仕事を続けてきました。
今回は1980年代の市民運動の記録を残すべく当事者として、水車むら会議やその周辺の話題を中心にお話しします。
第5回 街のエコロジー青年と舞岡公園づくり ― そして今、佐渡暮らしから思うこと
開催日:2022年12月27日(火)19:00-21:00
語り手:十文字修(いか福@Sado、元まいおか水と緑の会)
概要:高度経済成長スタートの1960年に、横浜郊外の団地で生まれた私。やがて地元の里山(谷戸)の魅力に目覚め、22才の呼びかけで始まった市民運動は、都市と自然、市民と行政の関係づくりに明け暮れる20年でした。結果、田んぼや雑木林でいつも市民が農作業している公園が実現。その一応の成就を見極め、新潟県佐渡島に一家で移住。こちらでは地方の現実、1980年代と現在の時代の違いにするどく直面しています。「世界を広く使えば地域は衰える。日本を広く使えば地域は息を吹き返す」そんな提案に至る道程をご披露します。
第6回 せっけん運動の化学反応をひも解く ― 連帯と変化は、いかにして起こるのか
開催日:2023年1月10日(火)19:00-21:00
語り手:石田紀郎(市民環境研究所)
聞き手:村上悟(碧いびわ湖)
概要:1970年代に琵琶湖とその流域で展開された、草の根の「せっけん運動」は、消費者運動にとどまらず、生協、労働組合、婦人会などの連帯、リサイクルせっけんの製造と廃食用油の回収運動、有リン洗剤の販売を規制する条例(通称:琵琶湖条例)の制定など、経済や政治にも大きな影響を及ぼした。
当時、この活動に伴走した科学者たちがいる。そのお一人で、京都大学農学部に勤務しながら「琵琶湖市民大学」「京大農薬ゼミ」「市民環境研究所」などの多彩な活動をされてきた石田紀郎さんにお話を伺う。
聞き手は、琵琶湖のせっけん運動と草の根自治を引き継ぐNPO、碧いびわ湖代表の村上悟。分断と対立が先鋭化しがちなこの時代の中で、人々の連帯や社会の変容をいかに生み出していくか、また、そのために科学が果たせる役割とはなにか、石田さんのお話を伺いながら考える。