2024年1月18日付けで、町田市の「モノレール沿線まちづくり構想(素案)」に対して意見を提出しました。
その後、2月29日に市民意見の募集実施結果が発表されました(応募者数66名、意見総数138件)
以下に、私の意見とそれに対する町田市の考え方を示します。
素案全体に対する意見
全体的にモノレール事業と沿線のまちづくり事業を、かなり強引に関連させようとしているように読みました。モノレールを通すので、この機会にさまざまな事業をまとめて推進しようとしているように感じられました。現在、芹が谷公園や野津田公園の再整備計画において、地域住民や関係団体側からさまざまな計画上の問題とともに、住民説明の不足など事業の進め方が拙速すぎると指摘されていますが、それは公園再整備とモノレール計画とが深くリンクしているからではないかと印象を覚えました。ぜひ、そうした疑念を払拭していただきたいです。
さて、そもそもモノレール事業は、町田市・多摩市のまちづくりにおいて、基軸となるようなものなのでしょうか。実際は、モノレール沿線に住んでいない人も多いので、開業したとしてもモノレールとほとんど関わることのない人が多いように思います。つまり、町田市・多摩市の課題解決や価値向上において、モノレール開業は一定の効果があったとしても、大きな影響を及ぼすとは思えないのです。
まちづくりにおいては、やはりエリアごとに、まちをどう再編するかが大事だと思います。それなのに、それを沿線まちづくりというかたちで全体構想を描くことから、基本的には別々に考えるべきことを、無理につなげているように見えてしまうのです。
もちろん、人びとの暮らしを支えるために、移動手段について考えることは重要です。しかし、モノレールは通るところが決まっており、1人ひとりの移動ニーズに細かく対応することはできません。一方、交通政策審議会答申が出た2016年と比べると、世界的には車のEV化が進み、自動運転やドローンなどが社会実装化されつつある現状を踏まえると、モノレールとは別のアプローチから移動や買い物を支援することが、今後より重要になってくると思われます。
そのような観点から素案を読むと、まちづくりをモノレールに頼りすぎているという印象を覚えます。
→「市の考え方」の記述なし
また、全体を通して、まちに「にぎわい」をもたらそうとしているように読めますが、一部では可能であっても、どこにおいても求める価値ではないと思います。豊かな自然が残っているところでは、にぎわいよりも、「安心できる」「落ちつける」といった価値の方が重要かもしれません。右肩上がりの時代では「にぎわい」があることを求めてよかったかもしれませんが、安定成長期の成熟社会においては、またSDGsを求める現代においては、持続可能な社会の実現が目標となるべきだと思います。それは、自然と調和し、人びとが心身ともに満たされた状態であること(ウェルビーイング)を求めるような社会です。そのような社会で大事にすべき価値とは何なのかを、あらためて考える必要があると思います。
町田市在住の進化生態学者、岸由二さんは生物多様性を「生きもののにぎわい」と意訳しました。私たちは、「にぎわい」という言葉を、若者たちが集まって活動しているような状況を想像しがちで、ただ豊かな自然が残っているところに「にぎわい」を感じません。しかし、生きもの側の視点に立てば、たとえば町田市の忠生・北部丘陵地区に豊かに残る「みどり」にも、「生きもののにぎわい」はあるはずです。ゆったりと落ち着いた暮らしを楽しめる居住環境を形成できれば、そうした「にぎわい」を感じられるようになり、人びとのウェルビーイングにもつながると考えられます。
国は2030年までに、「自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め、反転させる」ネイチャーポジティブを目ざしています。私たちがつくりだす「にぎわい」とは、ネイチャーポジティブへ向かうことではないでしょうか。
豊かな自然を生かしたまちづくりを考えるならば、「にぎわい」という言葉を使わないか、あるいは、この言葉の意味を転倒させることが求められると思います。
→暮らしやすい、過ごしやすい環境やそれを支える便利な移動の環境を整えることで、安心して快適に住み続けることができ、さらには、地域の外から多くの人が訪れ、地域内で多様な交流が創出されるような、住む人や訪れる人の“ココチよさ”がかなうまちの実現を目指していきます。
素案の記述に対する意見
P.7
暮らしの課題として、昼夜間人口比率が100%を下回っていることが挙げられていますが、これがどのような意味で課題なのかがわかりません。
→昼夜間人口が 100%を下回っており、働くために昼間市外に行く人が多いことから、地域内に働く場所を創出する必要があることを課題と考えています。ご意見を踏まえて、文言を修正します。
P.8
暮らしの課題として、さまざまな施設や後援、スポーツコンテンツへのアクセス手段が不十分であることが挙げられていますが、それでは、なぜアクセスの悪いところに、そうした施設等を建設したのでしょうか。建設当時と比べて、アクセス条件を高める必要が生じている理由について説明していただきたいです。
→暮らしやすい、過ごしやすい環境やそれを支える便利な移動の環境を整えることで、安心して快適に住み続けることができ、さらには、地域の外から多くの人が訪れ、地域内で多様な交流が創出されるような、住む人や訪れる人の“ココチよさ”がかなうまちの実現を目指していきます。
p.10
町田駅周辺の課題としては、駅利用者をまちに向かわせる求心力のある機能が不足していると書かれていますが、不足しているというよりも、急速に低下しているという状況で、下り坂にあるという点を強調した方がよいと思います。
→ご意見につきましては、構想の取りまとめの参考にさせていただきます。
p.13
「対流」という言葉を、辞書に載っているような通常の意味とは違う意味で用いていますが、わかりにくいです。公文書なのですから、わかりやすい言葉を使っていただきたいです。
→ご意見を参考に文言を修正します。
p.16
モノレールの特性で、「速達性が向上する」とありますが、1時間あたりの本数(頻度)がわからないので、移動の信頼性が高まるとは一概にはいえないように思います。
「環境にやさしい」については、バスからモノレールへの転換するイメージは湧きますが、自家用車からの転換が進むというイメージは湧きません。自動車には、移動だけではなく運搬も含めてモノレールには代替できない機能も少なくありません。また、自動車も今後もっとEV化が進むはずですので、自家用車と対比する書き方は適切ではないように思います。
「居住環境が良くなる」についても、一概には言えないように思います。モノレールの建設にあたり、環境の改変をともなうでしょうが、それが人によっては居住環境の悪化として感じられることもあると思います。
乗り換えなしで町田~多摩センターを行き来できるようになるとしても、そこに需要があるのでしょうか。どちらも駅周辺の賑わいは低下しており、モノレールで接続すれば回復できるような状況とは思えませんので、なぜ「都市間交流が進み、地域全体の発展につながる」と言えるのかわかりません。
「モノレールという同一軸上で多くの往来がおこ」り、「都市機能の連携が起こる」とありますが、楽観的に過ぎると感じます。すでに開業している区間で、そのようなことが起こっているのでしょうか?
→ご意見につきましては、構想の取りまとめや取組検討の参考にさせていただきます。
P.19
取組①の町田駅周辺の再開発促進、新たな都市機能の導入のところで、芹が谷公園を含む回遊性が描かれています。しかし、公園周辺には住宅地が広がっており、多くの駅利用者が回遊するには適切ではないように思いますし、公園の整備計画をめぐって、地元の理解も進んでいない状況のなかで、このように素案の中に描いてよいのでしょうか。
取組②に、事業化決定前までに芹が谷公園を再整備することが書かれていますが、モノレールの建設に関連させて公園事業を進めようとしていることから計画に無理が生じ、地元からの反発や、行政への不信を生んでいるように思います。
→芹ヶ谷公園”芸術の杜”パークミュージアム事業につきましては、これまでも説明会や報告会を開催しご意見を伺いながら進めてきました。今後も、芹ヶ谷公園近隣の地域住民をはじめ市民の方々に丁寧に説明をしながら進めていきます。
P.21
取組③団地再生の推進でも、にぎわいの再興がうたわれていますが、駅前も団地地区内も、どこでも、にぎわいを創出するようなまちづくりでよいのでしょうか。高齢化していくことは明らかですから、にぎわいだけではなく、落ち着きや安らぎを居住環境のテーマにして、人びとのウェルビーイングを高めるようなまちづくりも必要ではないでしょうか。
→団地再生の取組については、団地にお住いの皆さまや事業者の方々など関係者でまちづくりの方向性について、今後検討していきます。
P.23
取組④モノレール沿線の景観づくりの記述が乏しいと思います。モノレールの建設にともなって環境を改変する場合、失われた自然環境を代替するか、事業化以前よりも豊かなような環境づくりをめざすような取組を取り入れていただきたいです。
→ご意見を参考に文言を修正します。なお、2024年3月に改定を予定している「町田市景観計画」において、多摩都市モノレール町田方面延伸を見据えた景観づくりの考え方を示し、地域特性を踏まえた魅力ある景観づくりの実現を目指していきます。
取組⑤公共施設や公共サービスの相互利用について、具体的に何に取り組むのかイメージが湧きません。図の中の「他市との連携」には、相模原市等との連携も含まれるのでしょうが、それがモノレール事業とどのような関係があるのか、説明していただきたいです。
→公共施設や公共サービスの相互利用については、モノレール沿線市だけではなく、モノレールや導入空間となる道路を踏まえた公共交通網の再編を行うことで、モノレール新駅と周辺拠点を路線バスでつなぐなどにより、連携することを目指しています。
p.24
取組⑥新たな土地の利活用ですが、車両基地と一体的な面整備は具体的なイメージがわきますが、その下は図に拠点と軸のイメージと書かれているくらいですから、大まかな構想レベルだと感じられます。このため、計画の熟度に差がありすぎて、1つの取組としてまとめることに無理があるように思います。
また、「忠生周辺のにぎわいとみどりの都市拠点づくり」とあり、「住みやすい健康・交流のまち」をうたっていますが、地域の自然環境を活かして、どのようにそうしたまちづくりを進めていくのか、イメージが湧きません。みどりを住みやすさや健康につなげるのは理解できますが、そこににぎわいを持ち込んだら、みどりの魅力を失いませんか?人びとがにぎわうことよりも、「みどり」に含まれる多様な生きもののにぎわい(生物多様性)を、人びとが感じられるようになることが大事ではないでしょうか。それは健康や安らぎにつながるように思います。
→ご意見の趣旨については、今後の取組検討の参考にさせていただきます。
p.28
取組⑩「ウォーカブル推進」という日本語はわかりにくいです。単純に「歩いて楽しい空間づくり」でよいのではないでしょうか。「歩いて楽しいウォーカブルな空間づくり」という表現は冗長です。
→町田市は、国が推進する「居心地がよく歩きたくなる」まちなかづくりに賛同する「ウォーカブル推進都市」に位置付けられています。そのため「ウォーカブル推進」という言葉を用いています。
p.29
取組⑪「みどり空間の持続的な利活用」とありますが、「持続的な利活用」をどのようにすすめていくのかわかりません。フットパス活動や小野路里山交流館の整備をすすめても、ほとんどの里山は荒れていくばかりでした。みどりを楽しむ人が増えても、みどりの管理を引き受けるような担い手を育てることが必要ではないでしょうか。
「小山田蓮田緑地」という緑地の名称が取組として書かれているので、統一感がありません。これを入れるならば「小山田蓮田緑地の活用」などと書くべきでしょう。
→ご意見の趣旨については、今後の取組検討の参考にさせていただきます。また、ご意見を参考に文言を修正します。
P.30
取組⑪「農の風景育成」とありますが、この第一段落は都市農地の説明となっており、取組の説明として適切とは思えません。ほかの取組の記述との精粗に差があります。
→農地を保全、活用する取組「まちだベジハブ」や「まちだベジハブ」を先導するモデル地区として指定した「農の風景育成地区」の取組を補足するため、都市農地の説明を載せています。
P.31
取組⑫「既存ストックの活用」の「野津田公園の利用拡大」ですが、スポーツ人口は減少しており、量的に拡大するような時代ではないでしょう。豊かな自然が残されているメリットを活かし、バーベキューやピクニック等ができる広場の整備はよいと思いますが、希少な湿地環境を埋めてスケートパークを整備するのは、取り返しのつかない自然の喪失となり、野津田公園の魅力を大きく損なうことになると思います。
→ご意見の趣旨については、今後の取組検討の参考にさせていただきます。
以上、どうぞよろしくお願いします。