今回は、私も原稿を寄せたこの新刊本を題材に、コラムを書き進めていきましょう。
編者の木平先生とは、これまで面識がありませんでしたが、1996年に先生が編まれた『森林環境保全マニュアル』(朝倉書店)は、私に強い影響を与えた本です。
この本は、200ページ足らずの分量ですが(しかも4,410円と高い!)、2つの点で学ぶところが大きかったです。
1つは、森林(特に国有林)の保全や利用を考える上で、「市民参加はなぜ必要なのか」というシンプルな問いを立て、それに対してまっすぐに答えているという点です。
これは、『みどりの市民参加』にも参加された北大の柿澤宏昭先生による論考でしたが、私のような後続者が考える際の手がかりを与えてくれました。
また、若々しい感性と実直さが伝わってくる書き方からは、自分が文章を作成するときのヒントを得ました。
もう1つは、市民参加による森林保全の興味深い事例が、いくつか紹介されていた点です。
つまり、世田谷トラスト協会(現・世田谷トラストまちづくり)や横浜市の「ふれあいの樹林」や「市民の森」などです。
これらの事例について、ぜひ自分の目で見て、できれば保全活動に参加したいと思い、実際に1998年から、世田谷区、横浜市、町田市の都市林の保全に
関わるようになったのでした。
1996年時点では、「市民参加はなぜ必要なのか」と問うことができました。
当時は、森林のことは専門家が考えるべきだという考えが残っていたので、一般の市民が森林に関わる必要性を訴えることに意味があったからです。
しかし、今、同じ問いを立てても仕方ありません。
なぜなら、森林の保全や利用を考える際に、市民が参加するのは当たり前という時代になっているからです。
たしかに、この10年ほどの間に、市民参加の制度は充実してきました。
しかし、私が都市近郊における里山保全の動きを見る限り、この制度化の動きを単純に喜ぶことはできません。
私たちと社会とをつなぎ、人と人、人と自然の関係をより豊かにするはずだった市民参加が、いつの間にかその意義を見いだせなくなり、自発性・創造性を失っているのではないか、と思っているからです。
個人的な感想を述べてしまえば、面白くなくなってきたと感じているからです。
そこで、拙稿「里山保全のための市民参加」では、今日の時代を「市民参加が前提とされる時代」と捉えて、今後の「市民参加による里山保全の行方」について議論しました。
論考の構成は次のとおりです。
第1節 はじめに――市民参加が前提とされる時代
第2節 市民参加の制度化という問題
第3節 「里山」の定義再考―「私」との関係性で決まる意味
第4節 里山ルネッサンスから国民参加の里山保全へ
第5節 市民による里山保全運動の系譜
第6節 協働時代に求められる里山マネジメント
第7節 市民参加による里山保全の行方―協働から自主管理へ
私の結論については意見が分かれると思いますが、関心のある人の興味を引くようなデータは盛り込めたと思っています。
また、本の中ではお名前を記しませんでしたが、「まいおか水と緑の会」を設立し、舞岡公園づくりに参画された十文字修さん、NORAを設立し、新治里山公園づくりを進めている吉武美保子さん、森づくりフォーラムの設立に関わり、現在は花咲き村で活躍されている園田安男さんなど、
この分野における市民活動のパイオニアたちへのリスペクトも表しているつもりです。
ぜひ読んでいただき、ご批判をいただければ幸いです。
さて、私の論考から離れて、この本全体の説明へと移りましょう。
編者の木平先生は、冒頭の「はじめに」の中で、
この本の刊行に至った経緯と中身の特徴を記しています。
この本は『市民参加』について専門的な関心を持つ人びとが集まった 「市民参加研究会」によってまとめられたものである。
研究会は2007年に始まり、4カ月ごとに集まり、 参加者から提案されたテーマが討論された。 参加者は自分のフィールド・組織に深くかかわり、 事情をよく知り実質的なデータを持っていた。 それぞれが現実をどのように受け止めて評価しているかが述べられ、 将来の課題にどのように向かうかが主張された。
明と暗の側面への評価はそれぞれに異なる。 研究会は議論を通して互いの論旨を理解したが、 主張を削ったり、相違点を埋めたわけではない。 その相違点は論者の興味を刺激して 理解を豊かにするのに役立つと思うからである。 市民参加とは未成熟であるが、 柔軟な可能性を持つ仕掛品(製造途中の半製品)である。
私が、この本づくりに参加するきっかけをいただいたのは、森づくりフォーラムの吉村妙子さんからでした。
吉村さんと私は、市民による森林ボランティア活動が、理論的にも実践的にも社会的な影響力を発揮していた1990年代に、この世界に足を踏み込んだ者同士です。
団塊の世代を中心にして、運動を立ち上げた世代を第一世代とすると、一時期の盛り上がりがなくなり安定期に入った動きを、どうやって舵取りしていこうかと考えている第二世代です。
2008年の夏、何の縁だったか忘れましたが、久しぶりに吉村さんと話すことがあり、お互いのNPOの現状や課題について語り合いました。
そのときの感触から、吉村さんが私を誘ってくださったのですが、研究会の日程と私のスケジュールが合わずに、結局、初めて研究会に参加したのは2009年2月でした。
あまり事情もわからないまま、まずは様子見と思って首を突っ込んでみたところ、2007年から始まっていた研究会としては、そろそろ成果を発表しようという時期でした。
4月にはシンポジウムを開催し、本も出版するというのですから、とても驚きました。
しかし、せっかく与えられた機会だから、うまく生かす方向で考えようと思い、慌ててシンポジウムで話す内容を考え、そこで話したことを核として7月に草稿をまとめました。
8月末に最終稿を提出するというスケジュールだったので、8月の下旬は、産みの苦しみを味わいましたが、泥縄で文章を継いでいったので、なかなかまとまりません。
この苦しみは、初稿を出した9月から3カ月も続き、結局、何度も大幅に書き直すことになって、出版社には大変な迷惑をかけてしまいました。
最後に、本の中身について私もコメントしておきます。
木平先生もおっしゃるように、この本にはまとまりがありません。だから、環境保全分野の市民参加について、議論を深めていきたいタイプには物足りないでしょう。
その代わりに、具体的な事例が多く含まれています。
森づくりフォーラムやNPO birthといった都市近郊で環境保全に関わってきた市民活動の動きや、神奈川県における水源環境保全や丹沢大山自然再生の動きなどが、現場の視点から書かれています。
また、木平先生や柿澤先生のほか、この分野の研究者たちが今何を考えているかを知ることができるという魅力もあります。
自分が関わっているので、何とも評価しにくいのですが、市民参加によってみどりを守り、生かしたいと考えているならば、一読の価値はあると思います。