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映画『祝の島』

多摩市内の上映会で『祝の島』を見たとき、いい映画だなと思いました。
当日は纐纈監督のトークショーもあったのですが、その受け答えにもすっかり感心して、帰りがけに映画のパンフレットを購入し、監督からサインをもらいました。

昨年完成していたこの映画を見たのは今年の8月13日、つまり、震災後5ヶ月が経過してからです。
大学の同僚は、「震災後にフクシマへ行ったかどうかよりも、震災前に多くの人が行かなかったことの方が問題だ」と言いました。
その通りだと思います。
映画を見終えてから、なぜ私はこの映画を震災前に見ていなかったのだろうと考えました。

映画は、上関原発(山口県上関町)の建設に反対し続けている祝島の人びとを撮ったドキュメンタリーです。
私は、この原発の反対運動に加わっている方を知っていて、直接、反対している理由をうかがったことがあります。
4年前には、建設予定地のある長島まで行ったこともあります。
しかし、そのときは船で祝島まで足を延ばさず、原発をめぐるきな臭い雰囲気を感じただけで帰ってきました。
だから、この映画に映し出される祝島の、練塀に囲まれた集落、山や海での仕事、4年に1度開かれる神舞という島の祭りなどは知りませんでした。
そして、30年近くも島内で毎週デモをおこなっていること、町議会を傍聴するときや船を出して建設工事を食い止める場面で、島の人びとが必死になって体を張り、ときに怒りをぶつけること、こうしたことを具体的に想像することはできませんでした。
この問題に関心があったようですが、大事なことまで考えが及ばず、脇に置いたまま暮らしていたのです。

私もまた、この問題に賛成-反対の対立図式を安易に当てはめ、島人のことを少数の反対派として解釈していました。
特に私の場合、沖縄の八重山諸島に10年以上通っており、島のことは、実際に足を運んでみなければわからないと、よくわかっているつもりでした。
しかし、祝島の対岸に立ちながらも、それを遠目で眺めるだけで、その先へ行けなかったのだから、わかっていなかったのです。

3.11以降、しばしば、私たちの社会が、東電に代表される巨大で脆弱なシステムに依存していることが明白になったと言われることがあります。
私は、それをもっともらしい嘘だと感じています。
そうしたことは、誰もが知っていたことでした。
巨大地震の多い日本列島に原発を作ることの危険性については、ずっと前から言われてきたことです。
これに反対する市民運動にも、少なくとも1986年のチェルノブイリ以降、四半世紀に及ぶ歴史があります。
私の場合、想像力と行動力が欠如していたこと、これが露見してしまったと感じています。
だから、不甲斐ないという気持ちでいっぱいで、なかなか気が晴れることがありません。

3.11以降、私は授業で原発のことを、時間を割いて話すようになりましたし、ゼミ生には『祝の島』を見てもらいました。
しかし、あまり充実感はありません。
それは、自ら望んでやっているというよりも、やらざるをえないと思ってやっているからです。
震災が起こる前であれば、原発について考えることは私の意志でした。
だから、チェルノブイリの今を学生に話すとき、六ヶ所村の問題を一緒に考えるとき、もちろん、状況は深刻ですが、話すことや考えること自体はやり甲斐がありました。
しかし、震災以後、そうしたことは意志ではなく、やらざるをえない責務に変わってしまいました。
それは、自ら問題を引き受けて考える楽しみが奪われたことも意味していました。

内省的に考えていくと、深みにはまってしまいそうです。
しかし、私の周りにいる仲間や学生たちと意見を交わしたり、その行動を見たりしていると、気分も上向きます。
批判すべきシステムとともに生きるしかない私たちですが、そこでニヒルに構えるのではなく、まったりと自己満足に浸るのでもなく、仮想的な自由を求めて、楽しみを探っていこうと思います。

最後に、少しだけ、映画の内容についてコメントします。
この映画を見ると、なぜ祝島の人びとが30年近くも原発建設に反対し続けてきたのかという問いに対して、答えらしきものを見つけることができます。
それは、とても単純なことですが、海を汚したら取り返しがつかないということです。

神舞は1,000年以上も続いてきたと言われています。
そこまで長くなくても、祝島で暮らしを立ててこられたのは、昔から周りの海が豊かであったからです。
島の生活基盤である海を守ってきたからこそ、人びとは小さな離島に住み続けることができたのです。
時間軸を長くとって考えてみれば、電力が必要になった時間はごく短いものでしょう。
その間に人びとは賢明な判断ができるでしょうか。
3.11以降、できるとは、けっして断言できないはずです。

『祝の島』は、原発に興味がある人はもちろん、人と自然のかかわりについて、あるいは里山について、持続可能な社会について考えたい人には、ぜひ見てほしい映画です。

映画『祝(ほうり)の島 原発はいらない!命の海に生きる人々』(監督:纐纈(はなぶさ)あや、2010年)
よこはま里山研究所のコラム

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