フェイスブックのタイムラインを上から順番に眺めていたら、都立大の饗庭伸さんの投稿に目がとまった。
そこには、著者から恵贈されたという絵本『やとのいえ』が、表紙と中のページ2枚とともに紹介されていた。
饗庭さんによれば、「バージニア・リー・バートンの『ちいさいおうち』や、Jorg Mullerの『The Changing Countryside』の日本版、さらにいうならば多摩ニュータウン版」であるという。
これは早く読んでみたいと思い、さっそく購入した。
本書は、現在の多摩ニュータウン地域をモデルにして、谷戸に建てられた1軒の茅葺き農家とその周辺の移りかわりを、アングルを固定して描いたものである。
1968年(明治元年)12月~2019年(平成31年)4月まで、およそ150年間の地域史を、15枚の絵によって表現している。
語り手は、この長い歴史を農家の敷地内から見つめてきた十六羅漢の石仏である(作者は石仏を描くことが好きらしい)。
ニュータウン開発によって、里山の景観は大きく変わったけれども、石仏は同じ場所にあり続け、現在でも人びとの信仰を集めている。
本書の解説はとても詳しい。
1枚ずつ、その絵に描き込まれている農作業や村の行事、生活の様子などがくわしく説明されている。
作者が1枚の絵の中にどれだけの情報を盛り込もうとしたのかを種明かししているような解説なので、ニュータウンの歴史、里山の歴史を学ぶ格好の教材になる。
奥付のページには、「おもな参考文献・ウェブサイト」が挙げられており、その筆頭に故・峰岸松三さんの著者数点が挙げられている。
峰岸さんは、開発前の地元の生活の様子を多くの文章と絵に残されており、これは大変貴重な記録であるのだが、私家本のために読まれることが少ない。
それが、この新しい絵本の中に生かされたことにより、私たちは間接的に峰岸さんの記憶にふれることができる。
このように記憶を記録に残しておけば、何らかのかたちで継承されていくことがあるものだ。
(峰岸さんの肉声は中央大学の学生によって残されており、YouTube「多摩むかし探訪」から聞くことができる。)
現在、多摩ニュータウンにおける住民運動の聞き書きをまとめようとしているところなので、小さな歴史であっても、記憶を記録に残そうという気持ちが奮い立った。
また、本書を購入した丸善多摩センター店では、7月15日~9月15日の間、現在休館中のパルテノン多摩と連携してパネル展示フェア「航空斜め写真から見る多摩ニュータウン」が開催されている。
展示スペースには、多摩ニュータウンを紹介する「航空斜写真パネル」や、多摩関連本やパルテノン多摩の企画展図録が多数取り揃えられており、関心のある方には大変良い企画になっている。
なお、その図録の中に、本書と同様の関心から企画されたと思われる『開発を見つめた石仏たち~多摩ニュータウン開発と石仏の移動』がある。
長年の風雨にも耐える石仏という視点から、激動の時代を見つめるという手法に、人間が語る歴史とは異なる歴史実践の可能性を感じた。
ところで、谷戸×絵本といえば、『谷戸であそぼう 春』『谷戸であそぼう 夏』を素通りすることはできない。
この絵本の作者は、現在は鎌倉中央公園になっている山崎の谷戸で、青空自主保育の活動を長く続けてきた相川明子さんである。
絵本の内容は、相川さんが保育者を務める青空自主保育なかよし会の活動である。
ページをめくるたびに、なかよし会の活動を撮った映画『さぁ のはらへいこう』(2011年)のシーンがよみがえってくる。
現在のところ、春編(2015年)と夏編(2018年)が刊行されており、今後、秋編と冬編も出して、四季のシリーズが完結する計画だと聞いている。
次の秋編はいつ出版されるのだろうか。
今回は、谷戸×絵に絞って取り上げたが、表現手段として絵や写真などの可能性については、あらためて別に書いてみたい。