都内公開初日、6/21[土]の初回に、渋谷のシアターイメージフォーラムで観てきた。
さまざまな立場にとって、それぞれの「摩文仁」があり、「慰霊」と「顕彰」が交差する。
観るものを深く考えさせる、優れたドキュメンタリー映画だと思う。
この機会に多くの方々にご覧になっていただきたい。
もっとも、この映画については、公開される前から、以下の3つの理由によりSNSで周囲に勧めていた。
1つ目は、監督の新田義貴(以下、「新田」と記す)を信頼しているからである。
新田とは中高の同期だけれど、当時は深く付き合っていなかった。
私が沖縄で調査研究をするようになってから、彼のドキュメンタリー作品(テレビ、ネット配信、映画)、特に沖縄で取材した作品を観て、あらためて出会い直した。
新田の作品は、端的に言って、どれも良い。外れがない。
彼が扱うテーマの多くは、辛く厳しい内容を含む。
ウクライナをはじめ、紛争地にもしばしば取材に赴く。
ただし、怒りや悲しみに満ちた世界にあっても、その地に生きる人びとを見つめる新田のまなざしは温かい。
新田義貴(ユーロビジョン)は、多くの人に知られるべき、心ある硬派なジャーナリストである。
2つ目は、数多くの沖縄作品の中でも、
私が最初に感銘を受けたのが「摩文仁」だったからだ。
それは、NHK ETV特集「摩文仁~沖縄戦 それぞれの慰霊」(2013年)という映像で、すでにその作品の中で、今回の映画でも描かれる「慰霊」と「顕彰」が交差する、それぞれの「摩文仁」が描かれていた。
私はこのドキュメンタリー番組を観た後で、あらためて摩文仁にある沖縄県営平和祈念公園を訪れ、一つひとつの慰霊塔・碑に手を合わせた。
映画は、この時の映像も使いながら継続取材した集大成と聞いていたので、公開前から内容は間違いないと確信していた。
3つ目は、ナレーションが知花くららさん、歌が寺尾紗穂さんと、これ以上にないお二人が、この映画を支えているから。
YouTubeに公開されている主題歌「あれから」を視聴すると、おのずと映画への期待が高まった。
新田は、この映画制作に向けてクラウドファンディグのページで、こう記している。
「僕は映画によってこのような”違い”を浮き彫りにすると同時に、お互いが対話によって相手の考え方を理解することで、未来に向けて共通点を模索していくことができたらどんなに素晴らしいだろうかと考えています。」
この言葉に込められている願い、あるいは祈りに、私の気持ちも重ねたいと思い、わずかなお金を寄付した。
さて、ここから下は映画を観ての感想になる。
ネタバレを含むので、鑑賞後に読んでいただけるとありがたい。
冒頭、摩文仁の丘を上空から撮影したシーンから始まるのだが、その角度から眺めたことがなかったから、美しい海と険しい断崖が特徴的な自然の景観美に目を奪われるとともに、ここが80年前の凄惨な現場であったことを重ねて想像し、その対比が残酷で鮮やかに感じられた。
クラファンのプロジェクト名が、「沖縄の花売りのおばぁの思いを描くドキュメント映画『摩文仁 mabuni』応援プロジェクト」であったため、「魂魄之塔」(終戦後の最も早い時期に建てられた慰霊碑)のそばで半世紀以上も参拝用のお花を売ってきた大屋初子さんの話が中心になるのかなと想像していた。たしかに、大屋さんが物語の軸になっているけれども、その上で、さまざまな立場にとっての「摩文仁」が映し出されていて良かった。沖縄県民、鉄血勤皇隊、本土出身の軍人、朝鮮半島出身の軍人、アメリカ軍人など、沖縄戦で亡くなった人びとを思い、摩文仁で祈りを捧げる。摩文仁には多くの慰霊碑があるけれども、周辺に散乱していた遺骨3万5千余柱を納めたとされる「魂魄之塔」に焦点が当てられているので、似たような背景を持つ広島の「原爆供養塔」を思い出した(堀川恵子さんのノンフィクション『原爆供養塔』はオススメ)。
鑑賞中、何度か涙が頬を伝うことがあったが、たとえば、平和の礎で人びとが祈るところ、特に会ったこともない肉親を、1行の名前から想像して「会う」場面には、グッときてしまう。平和の礎には、国籍を問わず、軍人や民間人も区別せずに戦没者の名前が刻まれている。これは大田昌秀さんが県知事だったから成し遂げられたことで、現在だったら想像に困難だと思われる。
沖縄戦の司令官だった陸軍の牛島満と海軍の大田実は、今日対照的に伝えられている。牛島満は、6月23日に自決する前に、「生きて虜囚の辱めを受くることなく、悠久の大義に生くべし」と最後の命令を下した。このために、組織的な戦闘が終わってからも終戦までに、多くの日本兵や沖縄県民の犠牲が生じた。これに対して、大田実は自決する直前の6月6日に海軍次官に宛てた訣別電報に「沖縄県民斯ク戦ヘリ/県民ニ対シ後世特別ノ御高配ヲ賜ランコトヲ」という言葉を残したことで有名である。
新田は、牛島満の孫である牛島貞満さんと大田実の孫である大田聡さんにカメラを向ける。お二人とも元司令官の孫として、それぞれ沖縄戦に誠実に向き合っている。
牛島貞満さんのことは、以前新田が取材した映像で知っていたけれど(→首里城地下に眠る戦跡 司令官の孫が祖父の足跡を追うと決めた「長い宿題」)、この映画で大田聡さんのことは初めて知った。海軍司令部壕内で取材した映像が収められているのだが、正直な言葉が収められていて心に残った。
映画の中でもっとも衝撃的だったのは、昨年6月23日の「黎明之塔」(牛島満司令官と長勇参謀長を祀る)の様子を映したものだ。ETV特集を見たときは、自衛隊員が制服で集団参拝するところに、反対する市民が取り囲み、憲法違反だと非難するシーンに強い印象を受けた。そのシーンはこの映画でも使われていたが、近年、自衛隊員の集団参拝はおこなわれていない。その代わりに、おもにSNSを通じて東京などから「黎明之塔」の前に人びとが集まり、オカリナ奏者を中心に「海行かば」を合唱し、「英霊に敬礼」という掛け声とともに祈りを捧げていた。
新田によれば、慰霊の日に「黎明之塔」に集うオカリナ集団は今年さらに人数が増え、もはや止められない流れになっていること。この人たちは、話してみるとごく普通の人たちで、その誰にでも受け入れやすいカジュアルさがいちばん怖いのかもしれないという。
12年前の「摩文仁」を見て私は、国家主導で慰霊塔のヤスクニ化が進められることに警戒しないといけないと思ったけれど、いまはそれが大衆的な運動になっていることに、この十数年間の違いを感じた。
全編を通して、ナレーションは抑制的で、どのような立場の人であっても、公平に扱おうという姿勢が一貫していて好感が持てた。
世代、立場、価値観が違っても、人が人を思う気持ちに寄り添い、平和を願う祈りに満ちた映画だと感じた。
映像には、多くのさまざまな人びとの祈りが映されていたが、見終わってからは、キリスト者である新田の祈りの深さを感じることができた。
映画『摩文仁 mabuni』は、すべての人に、声を大にしてお勧めします!