6月16日(金)にモリダスmoridasとNORAの共催で、「現場の声をもとに考える里山・森林ボランティアの安全管理」を青山のGEOCとオンラインのハイブリッド形式で開催した。
里山保全・森林づくり活動の支援・管理をおこなっている団体から安全管理に関して工夫していること、効果を上げていること、現場で直面している課題や困りごとを共有し、ボランティアの安全管理をどうすればよいのか話し合った。
東京から多摩グリーンボランティア森木会の松澤朋子さん、神奈川から(公財)神奈川県公園協会/県立座間谷戸山公園の菅原正士さん、埼玉から(公財)トトロのふるさと基金の木村直樹さんに、それぞれ事例をご報告いただき、志賀壮史さん(NPO法人グリーンシティ福岡)にファシリテートしていただいた。
また、平日午後の開催だったため録画を期間限定で視聴できるようにして、6月28日(水)には、参加者・出演者・スタッフでふりかえりの会を設けた。
(→安全管理フォーラムの報告・アンケート結果)
里山・森林ボランティアの安全管理に関しては、これまでもイベントを開催したり、議論したりしてきたことでもあるので、今回は論点を整理したうえで、これから取り組むべきことを挙げてみたい。
1.基本的な考え方
まず、安全管理の考え方はプロもボランティアも同じである。
プロには高いスキルが要求されるハイリスクの作業をおこなうことがあるので、その分、安全管理にかけるコストも高くなる傾向はあるが、自分と仲間のいのちと体を守ることを最優先させることに違いはない。
ボランティア活動でも大木を伐ったり、動力機械を使ったりする場合は、自分が死んだり人を殺したりする可能性があるのだから、そのリスクを管理するための服装・装備、スキル、経験等が求められる。
必要な装備やスキルがないならば、その作業をおこなわない。
こうした安全第一の考え方は、いつまでに作業を進めたいという効率性を含め、さまざまな価値の中で、もっとも優先させなければならない。
この基本的な考え方は、たとえば、動力機械の使用や木の伐採など、リスクを伴う作業を禁止するものではない。
必要な服装・装備を身につけ、必要なスキルアップを図ることによって、ボランティアもこうした作業に取り組めると考える。
2.個人がスキルアップする上での課題
しかし、ここには課題がある。
まず、必要なスキルを身につけられる場や機会が少ない。
経験者から教えられたことや、テキストや動画などから学んだことがあっても、なぜそうすべきなのかという理由を説明できる人は少ない。
かりに理屈がわかったとしても、それを挙動や操作に落とし込むには練習が必要であり、そのためのトレーニング方法も十分に開発されておらず、ほとんど共有されていない。
このような問題意識から、モリダスでは森づくりレベルアップ研修を開催しているものの、毎年目標に到達する受講者は数名で、十分な機会を提供しているとは言えない。
また、手道具とロープで伐根直径20cm以下の針葉樹を経験者の指導のもとチームワークで伐採できるスキルを習得するが、広葉樹の場合やチェーンソーを使用する場合などには対応できていない。
里山・森林ボランティアの活動現場では、多くの森林が高齢化して大径木となっており、チェーンソーで伐木していることが多いという現状がある。
レベルアップ研修で身につけるスキルを生かしながら、森づくり活動をおこなっている現場が存在しないのである。
このギャップをどう埋めればよいのか、大きな課題である。
このスキルをどう評価すればよいのかも課題である。
一口に「ボランティア」といっても、今日初めて参加したという人から、長年の経験があるベテランまでが含まれ、その経験や技術レベルの幅は大きい。
このため、たとえば行政や企業等から、NPO・ボランティア団体に参加者の受け入れや指導を依頼しようとしても、どういう尺度で判断してよいのか困ってしまう。
そこで、かつてNPO法人森づくりフォーラムが音頭を取って「森づくり安全技術・技能習得制度」をつくり、森づくり安全技術・技能全国推進協議会(FLC)がこの制度を普及しようとした。
ところが、FLCは解散してしまい、この制度はその後発展しないまま、一部をモリダスが受け継いだという状況である。
モリダスのレベルアップ研修では、各段階で審査をおこない、それをクリアした人が次のステップに進めるようにしているが、このやり方では研修に参加しないといけないので、広がりは期待できない。
自分のスキルをセルフチェックできる仕組みを考えることが求められる。
3.団体としての安全管理
里山・森林ボランティアの安全管理を考える上で、個人としてスキルを向上していくだけでは不十分であり、団体としての安全管理がそれ以上に重要である。
CONE(NPO法人自然体験活動推進協議会)では、活動現場における安全管理者をリスクマネジメントディレクター、組織運営における安全管理者をリスクマネージャーと定義している(→自然体験活動における安全管理者認定制度について)。
前者の役割は、①安全管理マニュアルに従った事業展開、②参加者への安全指導、③ヒヤリハットの収集、④事故事例の報告など、後者は①安全管理マニュアルの見直し、②スタッフトレーニングの実施、③適切な保険加入、④ヒヤリハット・事故報告の分析、⑤事故事例等の情報共有などの役割を担うと説明している。
このわかりやすい整理を踏まえ、団体としての安全管理を考える際には、CONEリスクマネージャーの役割を頭に入れておくとよい。
つまり、団体としての安全管理も一種のスキルとして認識すべきである。
今回の安全管理フォーラムでファシリテーターをお願いした志賀壮史さんは、毎月「安全管理のコラム」を書いている。
2023年6月のコラム「『森林ボランティアの安全管理』メモ」では、フォーラムに参加するにあたっての自分用のメモをまとめられていたのだが、その内容がとてもよかった。
いくつか書かれているなかで、「日頃の習慣に落とし込むのに必要なのは根性ではなく技術」という言葉があった。
技術(スキル)と捉えることができると、団体としておこなうべき安全管理をいくつかのタスクとして切り分け、それらをスケジュールに組み込むことが可能になる。
たとえば、3か月に1回、ヒヤリハット・事故報告を分析・共有して、安全管理マニュアルの見直しに生かすとか、スタッフトレーニングとして、年に1回の救命救急講習、他団体スタッフとの安全管理技術の交流会を開催するとか、事故事例については森づくり団体のネットワークを生かして随時収集し、その事例をもとにしたワークショップを毎年開催するとか。
いろいろと想像できるし、アイデアもふくらむ。
4.ボランティアの多様性を生かす安全管理と組織運営
団体として安全管理を高めるためにできることはいろいろある。
しかし、ボランティア団体のメンバーは一様ではない。
安全「管理」はボランティアの自主性・自発性を削ぐことになりやすく、両者は対立しやすい。
組織運営上、管理を求める側は、あれこれと口やかましく言う立場となって、憎まれ役、嫌われ役になってしまうこともある。
このような状況は、団体内で同じイメージを共有できていないことを示しており、安全管理上も望ましくない。
そこでまた、志賀さんの「安全管理のコラム」(2023年6月)を頼りにすると、「安全管理は、活動を制限するために行うものではなく、活動を続けるために行うもの」という金言が記されている。
これは、何か団体内で安全管理をめぐる対立が生じた際に、つねに立ち返ることのできる言葉であろう。
そもそも、いろいろな人がいることは、いろいろな視点から物事を捉えられるというプラスの面がある。
自分には見えていなかったリスクを、他の人に指摘されることはよくある。
そういうときに、チームの有り難さを感じる。
里山・森林ボランティア活動では、作業の効率性を最優先としない。
代わりに、ほかの価値を大事にすることができる。
もちろん、安全第一は当然のこととしたうえで、いろいろな動機、経験、スキルのメンバーがいるのだから、
その多様性を尊重し、そのよさを引き出すことを求めたい。
誰もが、ある面において教え役になり、別の面で教わる役になる。
お互いに教え合い、学び合うコミュニティをつくることが、団体の安全管理をより高めると信じたい。
どんなに偉くても、経験があって、スキルがあっても、周りの人から謙虚に学ぼうという姿勢を示す人は、一人の人間として素敵だし、格好いい。
そして、里山・森林ボランティアの活動場所とは、そうした素敵な人びとが集う場でありたいと願っている。
5.安全管理の前に―そもそもどんな環境をつくりたいのか
2020年代に入り、関東地方の雑木林ではナラ枯れが広がった。
あちらこちらで広葉樹(特にコナラ)の大径木が枯れている。
これまで雑木林の保全活動において、もっぱら下草刈りだけをおこなって、伐採更新をしないままにしてきたことが主因と言われている。
そして、ナラ枯れに直面して、いざ皆伐更新が必要な時になってみると、一般のボランティアには手に負えないほどの大径木になっており、業者に伐採を依頼しようと思うと、大金が必要でお手上げという状態だ。
しかし、問題はこの後にこそある。
いったんナラ枯れ被害木を伐採したとしても、その後もこれまでと同様に、高木を伐らずに残す環境高木林を目標としてしまったら、今回のようなナラ枯れを招くだけであろう。
ここで、これまでの活動を反省して、一からスタートしないといけない。
まず、そもそもどんな環境をつくりたいのか。
どのような目標植生を設定するのか。
その目標に向かうためには、どのような作業が必要なのか。
その作業を進めるための、人員、技術、資金などはあるのか。
逆に考えると、人員、技術、資金に見合った目標とはどういうものか。
目標に近づいているかどうかをどう調べるのか。
モニタリング調査するための知識や経験はあるのか(作業技術が高く、生き物のこともよくわかる人は少ない)。
こうした課題をトータルに考えて、里山づくりと人づくりを進めていく必要がある。
安全管理とは、こうした大きなビジョンを実現していくために必要なものであることを忘れてはならない。
課題は山積みだが、呆然と立ち尽くすという感じではない。
近年の里山・森林ボランティアの課題というと、メンバーの固定化・高齢化の話ばかりで楽しくないが、それと比べると、やるべきことが本質的かつ明確である。
大きな課題を解決していこうと思うと力が湧いてくる。
この7月から、NORAは新しい事業年度(第24期)に入る。
新たな気持ちで、どのような里山・コミュニティを作りたいのかを想像し、そこに到達するまでの諸課題の連関を整理し、ロードマップを描きたい。