多摩丘陵の自然と社会を学ぶブックガイド

昨年から大学で「多摩丘陵の自然と社会」という授業科目を担当しています。
大学のキャンパスは多摩丘陵に位置し、北側(多摩市側)に多摩ニュータウン、南側(町田市側)に比較的よくまとまった里山があるという立地特性があります。
しかし、多くの学生は普段通っている地域に関心を持つ機会がありません。
そこで、足もとの自然と社会について学べるよう、昨年、新しい科目を設けました。

講義の内容は、多摩丘陵の成り立ち、この地域の里山の歴史、現状と課題、里山を開発してできた多摩ニュータウンの歴史、その現状と課題などです。
私は、この科目を担当することが決まってから、関連するテキストをピックアップしました。
それを関心のある方々と共有できればと思い、今回のコラムでは、多摩丘陵の自然と社会を考えるための資料をいくつかご紹介することにします。

まず、挙げておきたいのが、ルテノン多摩歴史ミュージアムの刊行物です。
ニュータウン開発については、展示図録『多摩ニュータウン開発の軌跡』がコンパクトにまとまっていて良いですし、写真集の『多摩ニュータウン今昔』『航空斜写真で見る多摩ニュータウン』は、開発がどのようなものであったのかを視覚的に教えてくれます。
開発の舞台となった多摩丘陵の里山を学ぶには、展示図録『多摩の里山~「原風景イメージ」を読み解く』があり、古文書、絵図、写真などから多摩の里山の景観史がひもとかれています。
また、あいにく絶版のようですが、『雑木林と人々のくらし』では、開発前の人びとと雑木林とのかかわりを知ることができます。

ただ、学生のように若い人たちは、民俗学的な文章を読んでも、かつての暮らしをイメージしにくくなっていますので、大学の講義では、適宜、映像資料を用意します。
その際に役立つのは、開発によって変貌していく多摩丘陵を記録した映画です。
多摩市では、そうした文化財映画を無料(2泊3日)で貸し出しています。
パルテノン多摩歴史ミュージアム(入館料無料)では、そうした多くの記録映像を見ることができますし、ここに挙げた図録・写真集を購入することもできます(ネット購入も可)。若者向けの映像としては、ジブリ映画の『平成狸合戦ぽんぽこ』が、比較的よくニュータウン開発の様子をアニメで描写しています。

ところで、私が多摩丘陵という場所を強く意識するようになったのは、20代後半に町田市の市民講座「多摩丘陵学・自然論」を受講したことが直接的なきっかけです。
この講座では、まず座学で多摩丘陵の自然について概要を理解した上で、その後は市内で地域環境の保全活動が行われているフィールドへ行き、活動団体から説明を受けたり、体験プログラムに取り組んだりするものです。
この講座に参加したことで、市内のおもな活動団体のフィールドを訪ね、多摩丘陵の里山の現状と課題を現場で知ることができ、保全活動に関わっていく直接的なきっかけとなりました。
受講時に配布されたテキスト『まちだ市民大学 多摩丘陵学・自然論』(多摩丘陵舎、1993年)には、岸由二、武内和彦、菅野徹、薄井清といった多摩丘陵の里山保全活動を理論的かつ実践的にリードしてきた方々が文章を寄せているほか、町田市内の活動団体とそのフィールドの概要説明もあり、多摩丘陵の自然を知る上では、コンパクトでなかなか有益な冊子です(編集はNORAもお世話になっている岸由二さんと北川淑子さんです)。
約20年前のものですが、歴史的な資料としての価値もあると思いますので、もし触れる機会があれば、ぜひご覧になっていただきたいです。

しかし、この冊子は一般には入手しにくく、講座用のテキストであるために文章による説明にも限界もあります。
ここに書かれていることを、より詳しく知るためには、以下に示すような著書に当たるのが適当でしょう。
岸由二編『いるか丘陵の自然観察ガイド』(山と渓谷舎、1997年
武内和彦「縄文と現代をつなぐ多摩丘陵」中村和郎ほか編『日本の自然 地域編3 関東』(岩波書店,1994年
菅野徹『町なかの花ごよみ鳥ごよみ』(草思社、2002年)
薄井清『東京から農業が消えた日』(草思社、2000年

多摩丘陵の里山のフィールド案内としては、「NPO法人みどりのゆび」が地域に昔からある風景を楽しみながら歩くフットパス活動を広げるために発行した『多摩丘陵フットパスマップ』が非常に役立ちます。
また、月刊『地理』(古今書院)で2008年に4回連載された岡秀一「多摩丘陵の谷戸を巡る小さな旅」では、多摩丘陵の谷戸における現状と課題が整理されています。

一方、多摩ニュータウン開発については、細野・中庭編著『オーラル・ヒストリー多摩ニュータウン』 (中央大学出版会、2010年)に、キーパーソンによる口述史がまとまっています。
また、最近刊行された上野・松本『多摩ニュータウン物語』(鹿島出版会、2012年では、壮大な社会実験の現場となった多摩ニュータウンの40年が明かされています。
大門正克ほか編『高度成長の時代2 過熱と揺らぎ』(大月書店、2010年所収の金子淳「ニュータウンの成立と地域社会」は簡潔に書かれていて便利です。
さらに、もともとニュータウン区域に入っていたものの、開発への反対運動によりニュータウン区域から外れ、現在は、八王子堀之内里山保全地域などに指定されているエリアについては、ユギ・ファーマーズクラブ『「農」はいつでもワンダーランド』(学陽書房、1994年が、当時の様子を伝えてくれます。
このほか、最近の多摩ニュータウンについては、市民学会「多摩ニュータウン学会」が発行している『多摩ニュータウン研究』(14号が最新)で、最近の市民による活動や大学等の調査研究がわかります。

以上のように、多摩丘陵の自然と社会を学べる本はいくつもありますし、ここでは取り上げていませんが、鎌倉街道、絹の道、自由民権運動など、中世・近世・近代史についても文献は豊富です。
私は、多くの人びととともに多摩丘陵を学び、多摩丘陵から学ぶことで、持続可能な社会を構想する力が、この社会に蓄えられることを願っています。

よこはま里山研究所のコラム

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