書評セッション報告

今回、編集委員会としておそらく初めて、学会大会時に書評セッションを開催した。
そこで、企画の趣旨も含めて当日の様子を報告したい。

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日時:2014年12月14日(日)9:00~12:00
場所:龍谷大学・大宮学舎 東黌101教室

①茅野恒秀(2014)『環境政策と環境運動の社会学―自然保護問題における解決過程および政策課題設定メカニズムの中範囲理論』ハーベスト社.
著者解題:茅野恒秀(信州大学)
コメント:及川敬貴(横浜国立大学[環境法、環境政策史])、脇田健一(龍谷大学)
司  会:松村正治(恵泉女学園大学)

②青木聡子(2013)『ドイツにおける原子力施設反対運動の展開―環境志向型社会へのイニシアティヴ』ミネルヴァ書房.(2013年度日本ドイツ学会奨励賞)
著者解題:青木聡子(名古屋大学)
コメント:村山聡(香川大学[ドイツ研究、環境史])、寺田良一(明治大学)
司  会:原口弥生(茨城大学)

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企画趣旨

筆者は『環境社会学研究』の編集に携わって3期6年目になるが、この間に学会誌に書評論文が掲載されたことはなかったし、それ以前にさかのぼっても、ほとんどなかった。この背景には、書評論文を書いても普通は業績として数えられないので、執筆する動機付けが弱いということがあるだろう。しかし、そもそも学会内で書評について議論する場や機会が乏しく、書評を通して受ける知的な刺激が少ないという理由も大きいと思われる。
一方で、私たちは本を選ぶ際に書評を参考にすることは多いし、特にすぐれた読み手の評価は気にするものである。また、最近は「ビブリオバトル」が国内で広がっているように、書評合戦とは知的に面白くなる可能性が高いはずである。
環境社会学の研究は、地道なフィールドワークで得られたデータをもとに議論を組み立てていくことが多いので、まとまった成果を出すのに時間がかかることが多い。特に書籍として出版されるような研究の場合、多大な時間と労力を投じて世に問うているのだろう。そうした研究成果が、学会内でほとんど議論されることもなく、ただ書棚に眠り置かれるとしたら虚しい。環境社会学が魅力ある学問であるためには、多くの研究成果を産出するだけではなく、そこから活発な議論が起こり、フィードバックされて、理論的な考察が深まることが求められる。

書評対象とコメンテーターの選定

こうした考えから、このたび編集委員会では、若手研究者による2冊の書籍を対象に書評セッションを企画することにした。あらかじめ午前中3時間という時間枠が決まっていたので、十分に時間をとるならば、1冊のみを取り上げるべきであっただろう。実際、1冊について、著者解題20分、コメント15分×2、討論40分というスケジュールでおこなったので、いささか忙しなくなったことは否めない。しかし、今回は実験的に試して書評セッションのあり方を探りたいという意図もあって、2冊を取り上げることにした。
書評の対象とする書籍を検討し始めた2014年8月、舩橋晴俊先生の訃報に接した。これまでの学問的貢献の大きさを考えれば、学会誌に舩橋先生の業績を振り返る企画を盛り込んでもよいはずだったが、すでに編集作業は進んでいたので、書評セッションの中で、追悼の意を含められればと考えた。
そこで、まずは①茅野恒秀著『環境政策と環境運動の社会学:自然保護問題における解決過程および政策課題設定メカニズムの中範囲理論』(ハーベスト社、2014年)を選んだ。茅野先生は舩橋先生の指導を受け、大いに薫陶を受けて調査研究を進めてこられた。その成果を博士論文としてまとめ、書籍として刊行したのが本書である。茅野先生による渾身の力作を読むことは、舩橋先生による影響を読むことになり、おのずと故人を偲ぶことになると思われた。
つぎに選んだ書籍は、②青木聡子著『ドイツにおける原子力施設反対運動の展開―環境志向型社会へのイニシアティヴ』(ミネルヴァ書房、2013年)であった。舩橋先生は、六ヶ所村に長く通い続け、核燃料サイクル開発について、一貫して批判的な立場を貫かれた。福島第一原子力発電事故以降は、この過酷災害を防げなかったことを悔恨し、それまで以上に脱原発と自然エネルギー推進に向けて、全身全霊をかけて取り組まれていたように思われる。フクシマ以降、なぜドイツでは原発をやめたのに、日本ではやめられないのか。舩橋先生も、こうした問いを抱えていただろうと考え、ドイツにおける1970~80年代の反原発運動を丁寧に分析した本書を取り上げることにした。なお、本書は2014年6月に日本ドイツ学会から学会奨励賞を受賞している。
書評の対象を決めた後で、コメンテーターを2名ずつ選ぶことにした。この際、2名の視点がなるべく離れている方が複眼的に立体的に批評できるだろうと予想し、若手・中堅とベテラン、環境社会学会の学会員と隣接領域を専門とされている非会員という組み合わせにできないかと考えた。そして、著者とも連絡を取りながら調整し、①には及川敬貴先生(環境法・環境政策)、脇田健一先生、②には村山聡先生(環境史・比較経済史)、寺田良一先生にコメンテーターをお願いした(誰が若手中堅で、誰がベテランかということは問わないことにしよう)。


書評セッション①

茅野先生の著者解題によると、本書は「政策科学としての環境社会学」を理論的な視点から深化させたいという問題意識から、森林・河川・沿岸域という3つの自然保護問題史について、アクター(政策・運動)、アリーナ(公論形成の場)、アジェンダ(政策課題・議題)という概念を用いて分析し、中範囲の問題群に整理した。さらに、この中間考察をもとに赤谷プロジェクトについても分析して、環境政策上な示唆を得たという内容であった。舩橋先生の環境制御システム論を踏まえつつ、自然保護問題を分析・考察したことにより、政策論を確実に前進させたと言えるだろう。
この解題に続き、環境法・環境政策を専門とする及川先生は、本書が若い研究者の情熱が感じられる大変な労作であり、自然保護論・資源管理論を研究する際に読まれるべきであると高く評価された。その上で、アメリカの公共政策論などにも参考になる議論があること、日米の法体系における環境の質(environmental quality)の位置づけ(行政と司法の力関係)、生物多様性の主流化という最近の動向について補足があり、さらに、赤谷プロジェクトは諸条件がうまく重なった特殊事例なのではないかという疑問などが出された。
つぎに脇田先生からは、舩橋環境社会学の正統な後継者と見られやすい茅野先生に対して、どう師匠の研究を乗り越え(ブレイクスルー)ようとしているのか、政治学・行政学の政策過程論と社会学とが相補的に議論できないか、取り上げた複数の政策過程の間に、相互の影響はなかったのかという質問が出された。これに対しては、特に赤谷での長い関わりから現場感覚という個人的な強み、さらに社会学では行為論という特徴を生かしていきたいという方向が示された。
フロアからは、本書副題の長さに表れているように、環境社会学は全体として状況説明的になっているという問題が指摘され、本書の知見を一言でまとめるとどう言えるかという印象的な質問があり、これに対しては、政策決定過程において、アリーナ、アジェンダに自覚的になるべきという返答があった。

茅野恒秀(2014)『環境政策と環境運動の社会学―自然保護問題における解決過程 および政策課題設定メカニズムの中範囲理論』ハーベスト社.

書評セッション②

青木先生の著者解題によると、本書はなぜドイツの原子力施設反対運動(特に立地点周辺の反対運動)が大規模かつ継続的に展開されえたのはなぜかという問題意識から、運動の担い手や参加者達の運動観に着目し、これが市民運動としての脱原発運動というよりよりも、生活を守る住民運動として展開されたこと。つまり、地域固有の抑圧の記憶、抵抗の物語などの地域的な文脈をベースに住民運動という意味合いが強かったのだが、それにナチスの過去の克服、権力への懐疑といった地域性を超えた意味づけも加わって拡大し、運動が成功したことを明らかにした。そして、ドイツの脱原発の動きは、単なるエネルギー源の転換ではなく、中央集権的な中央―地方関係の転換と繋がっていることを示した。
この解題に続いて村山先生は、「環境史研究としてのナラティブアプローチ」というワーキングペーパーをもとにコメントされ、本書がドイツ研究や環境研究において重要な貢献をしたという考えを示された。また、環境史研究を中心とした環境人文学(environmental humanities)の動きや、本書で採用されたナラティブアプローチという方法論についても言及された。そして、今後の研究課題として、ライフヒストリー分析や国際比較研究という方向性を提示された。
かたや寺田先生からは、本書はドイツが「環境先進国」と称されるようになる経緯について、3つの原子力施設反対運動を中心とした実証研究によって、社会運動社会の実相を探究した貴重な研究であること。さらに、ローカルな住民運動が外部支援者らと共闘していく過程をフレーム分析により鮮やかに示した環境社会学ならではの研究であることを高く評価された。一方で、地方―中央関係に関する政治学的な議論との対話、フレームの共有が偶然か意図的かという考究、日本やフランスなどとの国際比較への展開など、今後の研究への期待が述べられた。
フロアからは、ドイツの交付金・補助金制度、政治的機会構造との関係などについて事実関係のほか、原発推進派は反対運動をどう捉えていたのかなどの質問があった。青木先生は、事実関係に関する質問に丁寧に答えるとともに、コメントに含まれていた課題に対しては、十分に自覚しているので、今後応えていく旨を述べられた。

青木聡子(2013)『ドイツにおける原子力施設反対運動の展開―環境志向型社会へのイニシアティヴ』ミネルヴァ書房.

まとめ

セッション全体を振り返ると、企画者の印象としてだけではなく、数人に口頭で尋ねた参加者の感想からも、おおむね所期の目的は達成できたと思われる。特に隣接領域との議論の中に、新たな展開を開ける予感が示されていたので、次回を企画するときにこの点に留意したい。一方で、もう少し突っ込んだ議論を聞きたかったと言う声もあったので、論点をめぐって議論を深められるような仕掛けや時間の確保も検討したい。
今回のセッションをもとに、今秋刊行予定の学会誌第21号には、書評論文を掲載する予定である。また、こうした取り組みはある程度継続しないと効果が表れないので、今年6月に開催される第51回大会でも、書評セッションを企画したい。
今後、こうした場で書評を交わす機会が広がり、学会内で書評文化が大きく育つことを期待している。

※本稿は、環境社会学会ニューズレターのために用意した4,000字程度の草稿である。実際に提出する際には、企画趣旨などを省いて2,000字程度に縮めた。

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