コンテンツへスキップ

「協働」に巻き込まれて対等になる清々しさ

2012年10月から横浜市市民協働推進委員会の委員を務めている。
2015年度は、この委員会の仕事に多くの時間と労力を割いた。
2013年度から、それまでの市民活動推進委員会が市民協働推進委員会と名称が変わったのだが、いつしか名前だけではなく、議論される内容も変わってきたように思う。
新年度になり、お世話になってきた役所の方が異動したタイミングでもあるので、この間のことをふりかえっておきたい。

委員に就任したばかりの頃は、事務局(市民局市民協働推進部市民活動支援課)で波風が立たないようなシナリオを描き、それに沿って議事が粛々と進められていたように感じる。事務局からの長い説明を聞いてから、少しばかり質疑が交わされるものの、大勢には影響がなかったので、結果的に委員はお墨付きを与えるだけという印象が強かった。
それが、2013年4月から横浜市市民協働条例が施行されたからなのか、庁内で何かが変わったのか、よくわからないのだが、この2年ほどの議論は中身が濃く、委員会はよく機能しているように思う。

たとえば、2014年度には、協働を進める際の「公共的又は公益的な活動及び事業」の考え方を整理して、市長に答申(PDF)を提出することができた。
これは、行政と市民等が協働で行う事業のうち、営利目的が含まれる事業や共益的な事業と公益的な事業の区分が難しい事業について、どのような場合に公共的または公益的な活動となるかを、約1年かけて検討し、まとめたものである。
かなり渋い難しい話し合いだったが、公共性や公益性の範囲を狭く捉えられないように留意しつつ、ここで考えた基準それ自体も社会のチェックを受ける仕組みまで考え、制度に落とし込めたのは良かったと思っている。
答申のまとめに、「答申の中で考え方をまとめた「公共的」や「公益的」といった用語は、その社会や時代によって緩やかに変化していくため、その変化に対応すべく、事例の蓄積などを通じて判断していくことなども、重要である」と書き込めたことも評価している。

また、ふるさと納税の仕組みを利用して横浜市内のNPO(登録が必要)に寄付できる「よこはま夢ファンド」についても、2015年度から新たに活用する制度をつくることができた。
これまでは、寄付を集めた登録団体に対して助成金を交付することが中心であったが、2015年度からは、従来の団体支援のほかに組織基盤強化のための助成金が加わったのである。
このときは、事務局側で論点を整理した上で、寄付金の新しい活用案をいくつか提示され、かなり活発に、かつ率直に意見を交換した。
自由に議論したために、これをまとめるのは大変だろうと思っていたのが、次の委員会で事務局から、闊達な議論をいい具合に落ち着かせて制度化する案が示されたので大変感心した。

この新しい助成金制度は、パナソニックNPOサポートファンドを参考にして、助成事業のはじめと終わりにファシリテーターが入って自己評価ワークショップをおこなうことと、同年度に助成を受けた団体と意見交換する交流会への参加を義務づけている点が特徴的である。
かつて、NORAは組織基盤強化のために、パナソニック様から助成金をいただき、中長期計画の策定やウェブサイトのリニューアルなどをおこなったことがある。
このとき、外部からファシリテーターに入っていただいて自己評価する機会があり、設立時のかたちや方向性を維持して進むことの限界を自覚したことから、新たな段階へとシフトチェンジするにいたった。
こうした経験から、組織の基盤を強めるためには、いったん立ち止まって、自分たちの強みや弱りを冷静に分析し、メンバーの価値観や覚悟を確認した上で、進むべき方向や目標をあらためて定めることが大事だということを学んだ。
とても効果があると実感していたので、よこはま夢ファンドの新しい活用方法を議論したときは、組織基盤強化のための助成金制度の創設を積極的に勧めた。

議論の末に、2015年度から新たな助成金制度ができたのであるが、ここで誰がファシリテーターを務めるのかという問題が浮上した。
初年度だったこともあって事業期間が半年足らずになってしまったことから、ファシリテーターとの調整に時間をかけるわけにはいかなかった。
だから、私に話を持ちかけられたとき、この役割を引き受けることにした。
ファシリテーションの専門家ではないけれど、組織基盤強化の助成金の効果を実感しているNPOの代表であるし、何よりこの制度づくりに関わった責任を感じていたのである。

2015年度は5団体に交付することになり、そのうち次の3団体にファシリテーターとして関わることになった。

それぞれ分野は違うし、課題も異なるから、当日の流れを考えるのも苦労したが、多様な世界に触れられるのは楽しい経験でもあった。
ファシリテーターとしては、まず団体のメンバー1人ひとりの話に耳を傾け、課題をきちんと共有し特定することから始めた。私もNPOを運営しているので、各団体が課題に取り組む姿勢に深く共感した。
あらためて感じたことは、普段話をしない人、中核ではない人に話をしてもらうことが大事で、そういう人の中に冷静に物事を見ている人がいるということだった。
そして、課題が特定できたら、解決方法を検討し、当初考えていたアプローチが本当に適切かをあらためて議論し、確認していただいた。
この助成制度の良い点は、ここでアプローチを多少修正できるところである(そのために、自己評価ワークショップをおこなっているとも言える)。

事業終了後のふりかえりでも、やはりメンバー1人ひとりに、この間の変化について、感じたこと考えたことを自由に話していただいた。
あらためて個人や団体の成長を実感したり、あるいは仲間の優しさに触れたり、感謝を述べる機会となったりして、しばし胸が熱くなった。
最後に、これからどうするか、次の一歩を考えるところまで話していただいたが、3団体とも、それぞれのペースで前を向いて進んでいこうとする力強さを感じ、温かい時間を過ごすことができた。

組織基盤強化助成金の交付額は上限30万円とけっして大きくはないが、実際にファシリテーターを務めてみて、第三者が入って自己評価する機会を持てる効果は大きいように感じた。
どの団体も、目先のことに忙しく、あらためて話し合う時間をとることは難しいのだろう。
2016年度の助成金は、6団体に交付することが決定したが、予算規模が数千万から億単位のところも含まれている。
これは、大きな団体には大きな団体なりの課題があり、こうした制度を活用したいというニーズがあることを示しているのだろう。

2016年度の委員会では、3年おきに見直すことになっている市民協働条例について、この3年間を検証するという大きな課題がある。
この課題についても、見直し作業自体をいかに協働で進められるかが大事だという委員会での議論を受けて、別に行政と市民等から成るワーキンググループを設置することが決まった。
まだ、このワーキンググループの構成は決まっていないが、おそらく複数の委員が入ることを求められるだろう。私も打診があれば、断れないと思っている。

こうした振り返ってみると、ここ数年、横浜市の仕事が増えてきた理由がわかる。
すなわち、委員会などでいろいろと意見を言うことのリフレクション(反射)である。
あえて意地悪に書けば、「松村さん、それだけのことを言うならば、制度づくりまで関わってください、できた制度の運用にも関わってください」というかたちで、事務局サイドに巻き込まれているのだ(もちろん、面と向かってそのように言われたことはない)。

私は、こうした取り組みの姿勢に好感を抱いている。
委員を傍観者的な「コメンテーター」のように言ったら言いっ放しという立場に置かないで、当事者として、具体的にかたちになるまで関わるように求める。これは、通常の事務局と委員という関係に収まらない協働的な良い関係だと思っている。
一人の市民として対等に向き合えることに清々しさを感じる。

もちろん、はたから見たときに、私が「市民協働ムラ」に棲みつくお抱え委員として映るかもしれない。
だから、つねに私たちがまとめた答申や、つくってきた助成制度、2016年度の条例の検証などは、できるだけプロセスを公開し、その結果・成果も社会からチェックできるようにしておくことが重要だ。

NORAでは、神奈川県や横浜市と協働事業に取り組んできた経験があるものの、その効果は大きくなかったので、これまであまり市民協働に対して過大な期待はしていなかった。
しかし、ここ数年の委員会の取り組みを通して、また「協働」という言葉にかけてみたいという気持ちがある。その際は、課題の解決や価値の創造のためには、関係するアクターがどう組み合うと最大限の成果を達成できるのかと問い、その答えを状況に応じて考えていくことになる。
そうすると、この委員会で対象とする市民協働、すなわち、行政+NPOや企業等という枠組みでは収まらないはずだが、まずは、この枠の中で議論し、何かかたちをつくっていくことに力を入れていきたい。

新しい年度が始まった。
また、新しいことを始められそうな気がする。

よこはま里山研究所のコラム
タグ:

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です