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森林づくり活動実態調査コメント

ただいまご紹介をいただきました、NPO法人 よこはま里山研究所の理事長で、恵泉女学園大学人間社会学部の教員の松村と申します。コメントに関しましては、こちらの報告書がまだ最終版ではないそうですけども、皆さんのところにお配りされている報告書の4ページに、コメントという形でA4で1ページでまとめております。それと重なるものがあるかも知れませんが、少し膨らませながらコメントをさせて下さい。

初めに弁解になりますけど、コメントと言った時には、今の富井さんのご発表に対してなるべく内在的に、その分析の結果を受けて、それを踏まえてコメントするのが常識的なんでしょうけども、ここ(報告書)に書いてあることは外在的と言うか、そもそもの調査の限界みたいなものを指摘していくところから始まっています。

それは最後に富井さんがまとめられていましたように、もともとは林野庁が3年おきに行っていた森づくり活動の調査、それを森づくりフォーラムさんが引き継いだ形になっておりまして、調査の連続性を考えた時に、あまり大きく調査の質問項目だとか設定を変更できないことがあります。その中で例えば「森づくり活動とは何ぞや」ということですね、それは今の段階だと都道府県の担当の方が数えているという状況で、担当いかんによっては範囲もまちまちであるということも大いに考えられます。また最近の状況を考えた時に、森づくり活動というものを再定義する必要もあるんじゃないかと、そういうご提案がありましたけれども、例えばここにある森づくり活動の中には営利目的を外してあるんですね。

もともと1990年代に広がってきた市民ボランティア活動というのは、まったくそういった動きではなくて、本当に市民の発意からわっと全国に広がったものですから、通常の森林の施業をやっている人たちとは別にして行っていくボランティア活動。そういった動向から市民サイドに広がってきたもので、それを行政が何か支援できないかという所から始まっていたので、営利目的を外してある訳なんですけども、現実問題としては営利的なことで森に関わっていく人たちもかなり増えていて、それで主伐をやっている人ですとか、技術の専門家だという話にもつながってきます。あと持続可能性という話もありました。どこのボランティア団体も高齢化が進んでいると思います。

日本全国、大雑把に言ってしまうと90年代に非常に(森づくり活動が)広がってきましたので、古くからやってきている団体はもう20年くらい活動歴を持っている団体もあります。だいたい40代の元気な時に始めて、60代、70代になってきて、さてどうしましょうと。そういうところがほとんどですね。 

そうした時に世代交代が必要だという話が出てくるんですけど、いま若い人たちが森林ボランティア活動に入ってくるかというと、それどころじゃないですよね。リーマンショックを経て、どうやってこれから生活をしていくのか。右肩上がりの時代ではなくて人口も減少化していって、グローバル化の中で賃金も上がっていかないという中で、どうやって若い人たちがこれから関わっていくのか。それはおそらく今までの森林ボランティアの定義の中では捉えきれないと言うか、捉えていたのでは縮小していくものだと思います。

そうした(最近の営利的な)動きも実は、精神的な気持ちとしては森林ボランティアの活動と重なってはいるんでしょうけども、もうそれはボランタリーではやれない部分、要するに無償的に関われない部分だと思います。ですので、最後の富井さんのご指摘の中にもどうやって若い人が林業に関わっていくようになるかという、そういうお話がありましたけども、それは明らかにボランティアのシーンではないですよね。なので、そういったことも踏まえて議論をしようと思ってくると、アンケートの性格がかなり限界を抱えつつある。それを「過渡期」と言うのでしょうし、ようやく林野庁の調査から補助事業という形で、民間が行えるようになってきているので、森づくりフォーラムは団体の歴史を踏まえた形で、どうやってその林業とか森林を社会化していくかということを課題とされてきましたので、林野庁の枠組みの中で調査をされるよりも、森づくりフォーラムであれば調査設計自体も少し変えていけるのではないかなと思っています。

話は少し変わるんですけども、今回のチラシの中で「対象」を見ましたが「森林環境問題に関心のある方」と。これは随分分かりやすいのですが、まあ大雑把なんですけども。私は環境社会学という学問領域を専門としていまして、90年代の始め、1992年にはリオのサミットもあり、地球環境、環境というものが非常にもてはやされた時代です。その頃はたくさん環境関係の学問が広がってきました。環境社会学、環境経済学、環境工学だとか、色んなものが出てきたんですね。今は、環境では人が集まらない時代になっています。

90年代はまだ東西の冷戦が終わって、新しい解決する課題として「環境」というものが非常に大事だねという方向になっていましたけども、少し歴史を振り返れば2001年に同時多発テロがあり、またリーマンショックがあったりという状況で、時代が大きく変わってきています。ある意味「環境」が社会化されて当たり前になってきたと言えますけど、環境問題というもので人がわっと集まる時代ではないということだと思います。それに代わってきている言葉とすれば、多分「地域」という言葉だと思います。

最近、環境社会学会という学会の中でも、「環境」よりは「地域」という方向の方が、色んな問題を捉えられていいねという人たちが増えてきています。一方、日本村落社会学会というのがありまして、そこは農山村の研究をずっとやってきたのですが、一番新しい年報のテーマが「現代社会は山と関係を取り戻せるのか」というテーマでした。今まで農山村の社会の研究をしていた人たちも、山、森林というところをちゃんとまともに取り扱ってこなかったということだと思います。これはある意味チャンスだと思ったんですね。それは林業というものではなくて、山、山村で暮らすと言った時に、地域の資源を活かすしかない訳ですよね。その中にたくさんある山林資源、森林資源というのは十分に宝になるかもしれない。そうやって見た時に、どうやって農山村で生きて行くかということにちゃんと向き合って行こうと。それは、今までの林業のフレームも活用できれば活用していった方がいいけれども、最近の動きであれば、例えば「森のようちえん」や「森林ESD」だとか、森林施業をするということ自体ではなくて、よくできた森林空間をどう活かしていくか、森と社会との新しい関係をどうつないでいくかということを改めて考えていく時代なんだろうなと思っています。

最近「森のようちえん」などは、都会の人がわざわざ週末に電車で何時間もかけて、東京から山梨とか長野まで連れて行って、幼稚園的な活動をさせるというところも実際に出てきていて、定員オーバーになってしまうぐらいんことが起こっている訳です。そうした動きも、森づくり活動の中に含めて考えていく必要が出てきているのかなと思っています。

というのは、森林ボランティア活動を見ていった時に、90年代の森林ボランティア活動って、ある種の「オルタナティブ」を提供していたと思うんですね。それは何だったのかと言うと、通常の林業に対するオルタナティブであったり、それまでは国だとか、都道府県、市町村がやっていたものに対してのオルタナティブ。森林、山というのは、例えば国が持っているだとか、市町村が持っているだとかあるかもしれないけれど、実は何でそれを持っているのかというと私たちの森だから。だから私たちが活用するんだという、そういう意思表示があったんだと思うんですね。

それが色んな制度が出来てきたことによって、そういうことについてのオルタナティブがなくなってきた、制度化されてきたんだと思います。それでまあまあ良くなってきたというのが2000年代になってのことだと思うんですね。それで「人が足りない」だとか「お金が足りない」というのは、何かものをしようと思えば必ず出てくる話で、「課題として挙げて下さい」と言ったら単に出てくるだけだと思うんですね。

今本当に考えなければいけないことは、じゃあ人があって、お金があったら何をするんですかという話ですね。じゃあ間伐をし続けるんですか。今までは森づくりというと、そうやって林業の中で行っている活動をすることに対して助成金、補助金を出してましたけど、本来であれば主伐をするためにやっているというのが林業の作業ですよね。でもさっき言ったように、気持ちのいい森林空間が出来たらそれは市民のためになるかもしれない。ここにも書いたのですけど、「アウトプット」の活動をすることよりも、活動を通して何ができたのかという「アウトカム」をちゃんと考えなければいけない。なので、この(人や資金の不足などの)課題よりも、私自身が考えるのはその課題が解決された後に、私たちは一体どういう森をつくりたいんですかという、そこを考えることが本当の課題なのではないかと考えています。

その時に、今の課題となり得ることは、90年代の課題は私たちに森を返してくれ、森を取り戻すという話だったのかも知れませんけど、今はグローバル化していく中で、では私たちが森とどう付き合いながらどう生きていくのかという、そういう課題に変わってきているんじゃないかと。一番深刻なのは、やはり山村なのだと思います。(一方で)また、山村はまわりにたくさんの森林の資源があるから、それを活用して生きていくというモデルを示すには一番良い場所なんだろうとは思います。

その際には、林業をどうやって効率的にやっていくということよりも、内から破っていくというですね、別のものと組み合わせながらやっていく。例えばそれは福祉であったり、教育であったり、地域づくりであったり。そういうものと組み合わせながら、一体私たちの近くにある森林資源は、その中でどのようにして活かせるのかと、そういう発想が必要になってくるのかなと思っています。ただそれは、今までの「森づくり活動」という中では議論できないし、この調査のフレームの中には多分出てこない課題だと思うんですけど、そうした領域に進んでいく必要が、今の時代はあるのではないかと考えています。

時間が来たようですので、コメントはこれくらいにしたいと思います。どうもありがとうございました。

森づくりフォーラム主催森林社会学研究会連続講座第7回「森から人へ 人から森へ―森づくり活動の一歩先を目指して」(東京大学弥生講堂アネックスセイホクギャラリー、2017年2月4日)


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