『縮充する日本』

先日のプレミアムフライデーに、家の近くで開かれた町田市主催の「これからの公共施設のあり方について」の市民説明会に参加した。
これは、町田市が公共施設再編計画を策定するにあたり、市民の意見を聴くために市内10か所で開催した説明会の1つであった。
人口密度の低い地区ではあるが、参加者は6名と非常に少なく、動員もかからずに参加した人は、私だけだったかもしれない。
おのずと質問や意見のおよそ半分は、私によるものだった。

町田市は、昨年度策定した基本計画「町田市公共施設等総合管理計画」を踏まえ、2018~55年度を対象期間とした再編計画を策定しようとしている。
この基本計画では、市内には老朽化した公共施設がたくさんある一方で、財政状況が好転することは難しいと考えられることから、計画的に再編していくことの必要性が説かれたのちに、「経営的視点に立った管理運営」「新たな価値の創出」という2つの基本的な考え方が示されている。
3,000名の市民を対象に実施されたアンケート調査でも、9割近くが公共施設の再編について必要性を感じているようだから、再編すべきかどうかは論点ではない。
さらに言えば、2つの基本的な考え方についても、大きな方向性として異論はないだろう。

もちろん、「経営的視点」や「新たな価値」という言葉で意味すること、イメージされることに違いがあるので、そこを議論していく必要はある。
ここから先はディテールが重要になるだろう。
しかし、説明会では、その手前の部分、つまり、公共施設の再編計画の必要性の説明に力点が置かれていた。
そうした姿勢に若干の違和感を覚え、論点はその先にあるだろうと、いくつか意見を述べたのだった。

さて、この町田市が直面しているような課題は、今日、日本全国ほぼどこでも生じているだろう。
少子高齢化が進み、高い経済成長も望めない一方で、昭和の成長時代にできたハード(建物など)もソフト(制度など)も、時代に合わなくなり、更新していかなければいけない。
これまで主として行政が担ってきた公共サービスについては、その機能を維持しつつ効率的に提供できるように、NPO、地縁団体、企業など多様なアクターもかかわる必要がある。
広く市民が公共的な領域に参加する時代となっている。
しかしそれを、「~ねばならない」という義務と感じ、嫌々おこなうとすると、楽しくないから力が出ない。
そこで、新しい魅力を生み出すような楽しさを持ち込み、それぞれのアクターの力が十全に発揮される環境づくりが求められている。
このように現代社会の課題を捉えて、その社会を担う人材像を示し、そうした人びとが活躍できる場づくりの必要性を説くのは珍しくない。

本書も、基本的な考え方は、そうした議論と重なる。
しかし、作者はコミュニティデザインという言葉を流行らせた山崎亮さんである。
やはり、類書には見られない特徴がある。
それは、現代社会の課題を解決するために試みられている各分野の動きを、「参加」を切り口にして大胆に整理しているところである。
さらに、楽しく未来をつくるための仕組みとして「参加」を捉え、行政、まちづくりの分野はもちろん、情報、産業、環境、アート、医療・福祉、教育など幅広くカバーして、それぞれの分野における「参加」の動きをまとめているところがユニークである。

それぞれの領域だけを見れば、議論が浅く感じる部分も少なくない。
各分野の第一人者と対話し、重要なテキストを参照しているのだが、新書という形式のためだろう、あまり議論を深めてはいない。
しかし、これだけ広い分野の動向を追い、それぞれの潮流をまとめてみせる力技は、真似できるものではない。
たとえば、オープンデータ、シェアエコノミー、アートプロジェクト、地域包括ケア、アクティブラーニングなどの動向について、「参加」という視点から適切に取り上げている。急所を外さずに、ざっくりとした大胆なまとめ方は、精密な議論を好むアカデミックな研究者にはできない芸当だろう。

また、ときどき論点を掘り下げているところが見られるのだが、その際の議論の進めるセンスは良いと思う。
たとえば、参加型アートに関しては、素人がアートに参加すると質が落ちるという一般的な議論を参照し、著者はそれに一定に理解を示すものの、最終的には、そうした批判を超えていこうとしている。
その姿勢には共感する。
「参加」に「楽しい」と「未来」をつなぐ力を信じているのであれば、そこでぶれてはいけない。
そういう点で、きちんと一本筋が通っている本である。

不満を述べるならば、本書で「個」がかなり否定的に書かれていることである。
個人主義がはびこって公共的な関心を持つ人が少なくなったと歴史的な経緯をまとめていることには不満がある。
私の問題意識は、むしろ、社会を構成する「個」が弱いことにある。
これまで、さんざん近代主義者が言ってきたことと同様であるが、自立した「個」というよりバラバラな「弧」であったり、「個」のように見えて実は「群れ」であったりするところに、現代社会の「個」の問題があると感じている。
ただし、そうした違いはあるものの、現代社会の諸問題を解決するために、参加型アプローチが必要であるという点には、まったく同意する。

本書は、これまでの著作と同様、全体的に平易に書かれていて読みやすい。
ただし、あたかも教科書のように網羅的に書かれているため、幅広い分野に関心がないと、新書のわりにはボリュームはあるので、読み疲れてしまうかもしれない。

私は、今年の秋から「市民協働と合意形成」という科目を担当するのだが、本書は議論する材料が豊富にあるので、サブテキストとして使えそうだ。
記述の浅いところは、補足して説明したり、学生に考えてもらったりしてもいい。
これからの社会を担う若者に、ぜひ読んでもらいたい。
本書には、未来を楽しくするヒントが詰まっている。

山崎亮(2016)『縮充する日本―「参加」が創り出す人口減少社会の希望』PHP研究所.

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