緑本と青本をふりかえる

緑本:宮内泰介編(2013)『なぜ環境保全はうまくいかないのか―現場から考える「順応的ガバナンス」の可能性』新泉社.
青本:宮内泰介編(2018)『どうすれば環境保全はうまくいくのか―現場から考える「順応的ガバナンス」の進め方』新泉社.

■それぞれの成果

緑本

  • 副題の通り、順応的ガバナンスという理念の可能性を示した。
  • 社会-生態系の問題事例をもとに、それらを順応的管理(環境の問題)ではなく順応的ガバナンスの問題(社会の問題)として捉える方法を環境社会学的に提示した。

順応的ガバナンスの3つのポイント

  1. 試行錯誤とダイナミズムを保証する
  2. 多元的な価値を大事にし、複数のゴールを考える
  3. 多様な市民による調査活動や学びを軸としつつ、大きな物語を飼い慣らして、地域のなかでの再文脈化を図る

※拙論「環境統治性の進化に応じた公共性の転換へ―横浜市内の里山ガバナンスの同時代史から」では、都市近郊緑地を事例として、環境統治性が伸展していくなかでのガバメントとガバナンスの関係を論じた。私が価値的に順応的ガバナンスを志向していても、現実の市民社会はガバメント型公共性を求めていくという予感をもとに執筆。

青本

  • 多様な事例をもとに、順応的ガバナンスがうまくいくための5つのポイントを示すとともに、順応的プロセス・マネジメント(不確実性のなかで順応性を保証し、プロセスを継続)の条件を示した。
    ①複数性の担保、②共通目標の設定、③評価、④学び、⑤支援・媒介者
  • 5つの定番ツール×プロセス継続を駆動する「仕掛け」⇒多中心的なプロセスデザイン

私たちが提唱する順応的ガバナンスは、社会の順応性を信用するガバナンスのあり方である。

宮内(2018: 27-28)

※拙論では、順応的ガバナンスにおいて「よそ者」が「つなぐ」意義を認めながらも、社会の構造的な問題を個人のパーソナリティや努力に委ねてしまう危うさを論じた。一方で、社会問題の解決が個人の生きがいとなることには意味があるので、語り口、あるいは語る側の立場性を問題にしたかったとも言える。

■いくつかの論点

1.順応的ガバナンスの作り方―変革と適応の好循環

  • 順応的ガバナンスは、多くの事例に見られる経験を踏まえると、目ざすべき理念として掲げるものと言えそうだが、工業化社会に順応した社会のあり方の変革を求めるものであり、その道筋は一筋縄にはいかない。
  • 当然、公共的な環境保全・管理の分野に限定されるものではなく、さまざまな社会領域における変化への適応とともに進むのだろう。

2.ガバメントとガバナンス

  • ガバメント×-ガバナンス○という関係ではない。むしろ、現実の社会には強いガバナンスを求めている側面がある。
  • ガバナンスは民主主義社会への信頼を必要とするだろうが、今日、その民主主義が低成長と冨の集中を生むともいわれている。私たちの市民社会は開発独裁を招来したいのか。

3.VUCA時代のSDG教育

  • 順応的ガバナンスは、今日的に言えば、VUCA時代に求められる社会のあり方であろう。環境ガバナンスの文脈ではあるが、この点をいち早く指摘した功績は大きい。
  • 持続性sustainabilityという概念は、環境領域では1980年代から重要なキーワードであったが、2010年代からは社会経済領域における重要性が増し、それがSDGs達成を目ざす潮流を作りだしているようにみえる。
  • 青本では、③評価、④学びというツールが示されていたが、この部分は社会教育の観点から、深く掘り下げていく価値があるだろう。

4.コーディネーターと協同組合型プラットフォーム

・コーディネーターの期待する困難。多様なアクターが乗れるプラットフォーム。

5.共同性と公共性のあいだ

  • 私のライフワークの1つである里山ガバナンスの研究・実践において、「共同性と公共性のあいだ」のあり方を一貫して問題にしてきた。公に私を重ねながら、自由を求めるセンス。これは従来の市民社会論とは質的に異なるものであり、個人の内発的な動機や内から湧き起こる力や喜びを尊重するものである。しかし、経験上、このセンスを共有して、わかり合えるコミュニティと、わかりあえないコミュニティがあった。
  • 理念モデルとしての市民社会論は有効であるとして、そのオルタナティブを「公共的」な議論の場で論じることはできるのか。

※2020年10月25日(日)オンライン書評会のコメントために用意したレジュメ

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