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(仮称)町田市里山環境活用保全計画(案)に対するコメント

(仮称)町田市里山環境活用保全計画(案)に対するコメント

コメントが長くなりましたので、先に大きな問題提起を述べた上で、本計画(案)の構成順に個別のコメントをまとめました。

■大きな問題提起
◇「住む人も 訪れる人も 居心地のよい まちだの里山」という将来像[p.26]
今日のグリーンインフラの活用やSDGsに向けた潮流を踏まえれば、里山の環境が守られてこそ、社会経済活動が持続できると考える必要があると思います。
しかし、この「居心地のよい」という里山の将来像には、生態系へのまなざし、次世代への継承といった観点が希薄に感じます。
また、ここに書かれている文章から内在的に考えても、「時代に即した新たな循環サイクル」と「住む人も訪れる人も居心地のよい」との間が、乖離しているように思います。
基本方針としては、「時代に即した新たな循環サイクル」を生かした方がよいのではないでしょうか。
ただし、本計画(案)の循環という言葉には、里山資源の循環までしか射程に入っていないように読めます。そうではなくて、生態系の物質循環の仕組みを回復させること、世代間で知恵や技を継承していくこと、さらに、地域内に経済を循環させることなども含むと説明するとよいのではないでしょうか。

◇ビジョンの作り方について[p.38]
上記の将来像に関連して、もう1つ重要だと思われることを指摘させてください。
それは、「居心地のよい」とか「循環サイクル」という言葉だけでは、どのような里山を目ざすのかが明確ではないということです。「時代に即した」と書かれているように、本計画(案)で目ざしているのは、高度成長期以前のように、里山資源が循環的に利用されていたときに戻すことではないでしょう。今後も、クヌギ・コナラを中心とした雑木林を維持することが自明とは言えないはずです。
生物多様性やバイオマス利用の観点からいえば、減少してきた草原や湿地を再生させることも重要な取組になると思います。
それなのに、広葉樹を活用するために伐採するとして、将来どのような森にしていくのか、具体的な姿(ビジョン)がイメージできません。
たとえば、山林の資源はどのように利用されるのか、農や街との関係を結び直すような構想を描いてもよいでしょう。そのとき、山林はどのような樹種によって構成されているのでしょうか。
まだ、こうした将来の里山ビジョンがないのであれば、それを地元の人たちを中心に、多様な主体で連携しながら考えることが大事だろうと思います。
本計画の進行管理は「計画推進委員会」のような団体が担えばよいと思いますが、この計画に書きこむことができなかった里山の将来像を、それぞれのエリアできちんと立てていくことが必要だと思います。

◇対象地域の現状と課題[p.15-16]
現状と課題にかなり重複して同じことが書かれており、両者が書き分けられていません。
現状の部分に、すでに課題として言及すべきことが多く含まれていますから、現状には客観的なデータを示して説明した方がよいと思います。
たとえば、町田市内の里山林の林齢がどのくらいなのか。ナラ枯れ被害がどのように拡がっているのか。活動団体はいくつあって、どのくらいの面積の里山を整備して、どのくらい資源が活用されているのか。町田の里山を訪れる人、体験イベントに参加する人は、どのくらいいるのかなど。
こうした現状のデータを踏まえて、これまでのやり方ではうまくいかないという課題を抽出するのが、ここで求められることだと思います。

◇エリアごとの現状と課題[p.18-25]
第2章の4.エリアごとの現状と課題において、それぞれの地域課題が多様に示されれば、エリアごとに現状と課題を分析する意味はありますが、どのエリアでも地域課題はほとんど同じになっているので、この節の位置づけが不明確になっています。
ここでの課題分析が甘いために、第4章2.エリアごとの取組[p.32-37]について、なぜその取組が必要なのかが理解しにくいです。
エリアごとの現状と課題については、各エリアの土地利用、法規制、地域資源などを地図に落とすとともに、これまでの事業の成果、地元の声などを踏まえて、情報を整理していただくと、基礎資料として使えるかたちになると思います。
特に、ここでは、それぞれのエリアで長く取り組まれてきた保全・活用の現状と課題を整理しておくことが重要です。たとえば、小野路エリアであれば、小野路里山交流館、NPO法人みどりのゆび、恵泉女学園大学などで取り組まれてきた事業など、小山田エリアであれば、NPO法人まちだ結の里の活動、農地バンクの施策など、相原エリアであれば一般財団法人相原保善会の活動などがすぐに頭に浮かびます。自治会をはじめ地域団体が取り組んできたこともあるでしょう。こうした活動のこれまでを把握した上で、これからを構想するという流れが必要だと思います。
このようにして整理したエリアごとの課題を踏まえて、第3章の基本方針が示され、第4章のエリアごとの取組が導き出されるという論理的な構成にしていただきたいです。

◇エリアごとの取組[p.32-37]
エリアごとに現状と課題が整理されていないので、取組の妥当性が理解できません。
まず、「地域の取組テーマ」が、どのような根拠をもとに打ち出されたのかわかりません。
このために、「リーディングプロジェクト」も論理的に導き出されたものではないようです。
たとえば、小野路エリアでは「竹林の再生と活用」が掲げられていますが、なぜ、このエリアだけで竹林が取り上げられているのでしょうか。竹資源を加工するとなれば、小野路だけではなく、広域的な資源管理と連携させて取り組むべき課題だと思います。むしろ、竹林の再生と活用であれば、町田市全体で取り組むべきものとして位置付けてもよいのではないでしょうか。
このような疑問が生まれてしまうのは、それぞれのエリアの取組が、どのような現状と課題を踏まえて示されているのかわからないからです。
計画の中には、後から間違えていた、失敗したとわかることもあります。計画とは後から修正していくものだと考えておく必要があるでしょう。
今後、計画を正していくときに、どのような現状分析から課題を特定して、計画を立てたのかという論理の筋道を残しておくことが大事だと思います。
ところが、本計画(案)では、そうした論理が見えないので、恣意的に計画が作られたように見えます。
なぜ、本案に書かれている「具体的な取組」が考え出されたのか、そのプロセスを計画に書き込んでください。

■個別のコメント(計画書の順に)
◇第1章 3.計画の位置付け[p.5]
「「町田市北部丘陵活性化計画」を引継ぎ」とありますが、この計画策定後約10年間の事業をしっかりと評価した上で、本計画(案)が策定されるべきだと思います。
良かった点は引き継ぎ、悪かった点を改善していく必要があるでしょうが、そのような分析や考察をされているならば、明記した上で計画を立てていただきたいです。

◇第1章 5.対象地域の林相区分図[p.6-7]
里山を山林や農地として捉えているのだから(p.14)、林相区分ではなく、農地も含めた土地利用区分を表した方がよいと思います。また、図が鮮明でなかったので、鮮明な図を転載してください。

◇第1章 6.計画策定の背景[p.8]
(1)の書き方が、(2)以降の書き方と違って、背景を説明せずに単なる項目になっています。(2)以降に合わせた方がよいでしょう。
これはp.5について指摘した点とも重なりますが、北部丘陵で最近取り組まれてきた事業について、どのように評価されているのかを踏まえて、背景を説明するとよいと思います。

◇第3章 3.4つの基本方針[p.29]
基本方針4に「里山ではじめる」とありますが、これから何か始める人を支援することはよいとして、これまで活用保全をすすめてきた人たちの支援も重要だと思います。前者を起業支援とすれば、後者は第2起業の支援や事業承継に類比できますが、両方ともに目配せしておくべきだと考えます。
すると、「里山ではじめる」ではバランスが悪いので、両者を含むかたちで「里山をいかす」でもよいのではないでしょうか。
さらに、ここでもう1つ指摘すると、「野菜や木材などの里山の産物を活かしたビジネス」とありますが、現在、国が森林サービス産業を推進しているように、産物(モノ)だけではなくサービスも含めたビジネスを射程に入れておくとよいと思います。

◇第4章 1.町田市全体の取組(重点事業)[p.30-31]
「新たな循環サイクルの構築」を目ざそうとしているのに、なぜ重点事業1の達成指標が山林再生の面積なのでしょうか。
資源循環に焦点を当てるならば、材積を示すべきでしょうし、あるいはサーキュラーエコノミーを意識するならば、町田市の里山資源が生みだした付加価値を金額で示す方が適当ではないでしょうか。

また、山林再生の取組として間伐を実施すると書かれていますが、特に高齢化した雑木林に必要なのは間伐ではなく、小面積の皆伐更新だと思います。「新たな循環サイクル」の構築には、除間伐を中心とした森林整備では十分ではないという課題認識が必要だと思います。

③の具体的な取組の中の「コーディネート」は、重点事業2と重複しているように読めるので、「環境整備」などと書き方を変えた方がよいと思います。

重点事業2と重点事業3では、達成誌用に現状値が書かれています。これは町田市の里山の現状を表す1つのデータとして、2章で示しておくべきでしょう。そうでないと、ここで達成指標として出てくる理由がわかりません。

◇小野路エリア[p.34-35]
取組テーマとリーディングプロジェクトの間に整合性が見られません。
自然・歴史資源、農環境の活用は大事だと思いますので、そこからフットパスの再整備が導き出されるのはわかります。小野路には、竹林だけではなく、高齢の雑木林の管理や谷戸田の再生も求められます。そのような里山環境を活用していくならば、むしろSDGsをテーマにした観光やまちづくり、教育・医療・福祉との連携などをリーディングプロジェクトに挙げていただきたいです。
また、プロジェクトの1と2は具体性のレベルが違いすぎます。「2.地域の課題解決につながる取組の推進」をプロジェクトとしてしまったら、「1.竹林の再生と活用」はそのうちの1つに過ぎなくなります。ほかのエリアにも言えることですが、プロジェクトの具体性のレベルは揃えるべきでしょう。

◇相原エリア[p.36-37]
プロジェクトの1.2.は一つにまとまると思います。
このエリアの里山については、八王子側の活動とも連携を図る必要があるでしょうから、そのことも書きこんでいただきたいです。
また、相原保善会が中心になって取り組んできた森林整備の活動を、この計画の中にどのように位置付けていくのかを書きこんでいただきたいです。

以上、どうぞよろしくお願いいたします。

2022年1月16日

松村正治(町田市相原町在住)
Life Lab Tama 副代表

https://www.city.machida.tokyo.jp/shigo/kocyo/publiccomment/publiccomment_now/satoyama.html
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