2019年に読んだ本から10冊

今年読んだ本の中から取り上げるに足るいくつかを、刊行年月日の古い順に簡単にふりかえる。

中野剛志『富国と強兵』東洋経済新報社(2016/12/9)

著者には多くの著作があるが、本書が主著である。いくつもの新書版を読むよりは、この本に書かれている著者の地政経済学を理解する方が有益。マッキンダー地政学、ポスト・ケインズ派経済学と現代貨幣理論(Modern Monetary Theory; MMT)などのレビューがよくまとまっており、最近の安全保障論や経済政策論の論点周辺を見通し良くしてくれる。著者の国家観と合わなくても、十分に読む価値がある。


小野塚知二『経済史―いまを知り、未来を生きるために』有斐閣(2018/2/1)

大学の講義用に丁寧に書かれた経済史の教科書。24章あるが、各章のまとまりと、全体の流れが良いのでストレス無く読める。マルクスとの距離感や環境問題への言及などから、現代的なバランスの良さを感じる。終章に、未来のいくつかの可能性が示されているが、全体のトーン通りに目配りが適切で妥当過ぎる感が残る。


渡辺一史『なぜ人と人は支え合うのか─「障害」から考える』筑摩書房(2018/12/10)

『こんな夜更けにバナナかよ』(2003年)『北の無人駅から』(2011年)の後、長らく待ちわびていたが、本書は2016年の相模原市障害者殺傷事件を踏まえて、人と人、社会のあり方を優しく問いかける。著者らしい丁寧な筆の運びには感心したが、やはり新書では物足りない。まだまだ待つので、著者にはノンフクションの長編を期待したい。


松村正直編『戦争の歌』笠間書院(2018/12/14)

本書は薄い本だけれど、中身は濃い。相当の時間やエネルギーが投入されているはずで、著者の調査能力と文学的素養がよく表現されている。歴史社会学と文学批評のあいだを埋めるユニークな本である。また、過去の歌だけれど、編者の問題意識はアクチュアルで、今日における社会的な表現のあり方を考えさせる。


野口裕二『ナラティヴと共同性―自助グループ・当事者研究・オープンダイアローグ』青土社(2018/12/17)

読んだときのインパクトや分かりやすさからすると、『物語としてのケア』(2002年)に軍配が上がるが、独自に考えようとする意思は本書の方が強く感じる。サブタイトルにある事例をもとに、ナラティブ・アプローチの現在地を知るのに良い。試行錯誤しているさまと余白や余韻が残るこの読後感が、現代の知のあり方を反映している。


佐々木実『資本主義と闘った男―宇沢弘文と経済学の世界』講談社(2019/3/29)

本書は、宇沢弘文について書かれた分厚い評伝であるとともに、宇沢の視点から見えた戦後の近代経済学史としても優れている。詳しくは、すでにコラムに書いたので省略。


富永京子『みんなの「わがまま」入門』左右社(2019/4/30)

社会運動論を専門とする若手社会学者が、「わがまま/おせっかい」を軸に、中高生にも分かりやすく社会のつくりかたについて書いた本。日本が30人の教室だとしたらと仮定して、「ひとり親世帯の人は2人/発達障害の可能性のある人は2人/貧困状態のある人は5人・・・」など、身の回りのことから数字を挙げて説明の仕方が、うまいと思った。


東浩紀『テーマパーク化する地球』ゲンロン(2019/6/11)

別に取り上げた『観光客の哲学』(2017年)を基本書として、併せて読みたいのが本書。「テーマパークと慰霊」というキャッチーなテーマ設定が魅力的だ。著者は「誤配」される効果に注目する。私も自分の意図を離れて拡散していく場合に、ときに起きる奇跡を信じたい。また、最終5章で組織上のゴタゴタを率直に書いた著者の姿勢に好感を抱いた。


小熊英二『日本社会のしくみ―雇用・教育・福祉の歴史社会学』講談社(2019/7/17)

先行研究をよく渉猟し、雇用を中心に日本社会のしくみがどう変化してきたのかを跡づける丁寧な仕事。雇用の3つの類型(大企業型/地元型/残余型)は、残余型の座りが悪いが、なかなか説得力がある。軍隊と企業の組織的な連続性・相似性については、現代の社会でも散見される。本書を読んで、これからどういう社会を描こうかと考える本。


梶谷懐・高口康太『幸福な監視国家・中国』NHK出版(2019/8/10)

本書には、新疆ウイグル問題のルポも含まれているが、これは中国本というより、中国を事例とした監視社会論、公共社会論である。日本でも、監視カメラが街中に設置され、ビッグデータが収集され、個人情報がひも付けされ、信用スコアに反映される社会に突入している。私たちの近い将来のあり方について考える際、中国の動向をよく観察することにより、良いヒントが得られるはず。


10冊挙げたから、とりあえず、ここまで。
もう少し新しい本は、またいつか取り上げたい。

よこはま里山研究所のコラム

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