環境NPOの活動経験を生かした仕事づくり

1.はじめに―男性スタッフの「寿退社」

先日、ある環境NPOに勤める知り合いの男性職員が退職した。その団体のほかの職員に彼の退職理由を聞くと、「最近、結婚して子どもができたので、今まで以上に頑張って働かなくてはいけなくなったから」という。いわゆるNPOスタッフによくある「寿退社」であったようだ。この環境NPOは、全国に8か所ある環境省地方環境パートナーシップオフィスの1つを運営しており、相対的には恵まれた労働条件を職員に提供していただろう。しかし、3年ごとに運営業務を総合評価方式で落札しなければ十分な収入を確保できないため、多くの職員は期限付きの契約雇用で働いている。このため以前にも、住宅ローンを組むことができないと言って、結婚後に男性職員が辞めていったという。

2017年度のNPO法人に関する実態調査結果(内閣府)によれば、1人当たりの常勤有給職員の人件費は231万円であり、学生や若者達の間でNPOを就職先として考える人が増加傾向にあると言われているが、現実は(特に環境分野では)甘くない。

2.環境NPOにおける経営環境の現実

1995年のボランティア元年、1998年に特定非営利活動促進法が施行され、2000年代は「環境」「NPO」に追い風が吹き、環境NPOの活動を支援する自治体や基金の助成制度が充実していった。また、2003年の地方自治法改正による指定管理者制度の導入によって、都市公園や環境系施設の管理運営に環境NPOが参入しやすくなった。こうした外的要因の変化により、それまで常勤職員のいる環境NPOといえば、NACS-J、WWF Japan、日本野鳥の会のような全国規模の大きな団体にほぼ限られていたものが、中間支援をおこなう地域団体も常勤職員を抱えるようになった。

ところが、1997年放送開始のテレビ番組『素敵な宇宙船地球号』が2009年に終了したように、2010年代を迎える頃には「環境」が人びとの関心を惹きつけなくなった。また、3.11以降の震災・原発災害復興、相次ぐ自然災害の復旧、過疎化が進む地方の活性化などの社会課題に対応することに追われ、環境NPOに向けた公的支援は縮小していったように思われる。

こうした条件下で、環境NPOは次のような方法で収入を得ようとしてきた。

  • (1) 民間の資格制度を創設し、人材育成事業の原動力とする。
  • (2) 指定管理者となって公的施設を運営する。
  • (3) 富裕層にターゲットを定めて、自主事業を開拓する。
  • (4) クラウドファンディング、寄付制度を活用して、寄附金を募る。
  • (5) 補助金・助成金、受託事業を獲得し続ける。 ※人件費支出は助成対象とならないことが多い。

しかし、(1)は就業との関連が低いために事業拡大が難しく、(2)は施設管理に経営資源が奪われて自主事業まで手が回らず、(3)は「体験の貧困」という社会課題には届かず、 (4)は可能であればよいが現実には難しく、(4)は安定した組織経営にはほど遠いという実状がある。

3.環境NPOのシゴトづくり社会実践

NORAは、今日の環境問題に急所を突くには、都市的な価値観・ライフスタイルの変革が必要であると考えてきた。都市は人と自然の関係を遠ざける。だから、NORAは、おもに都市住民に向けて「里山とかかわる暮らしを」と呼びかけてきた。しかし、このキャッチフレーズは、2000年の設立時に「里山でシゴトする!」と勇ましく掲げた言葉を取り下げ、2008年に経営の現実を踏まえて代わりに考えたものであった。

環境NPOの目的は、持続可能な環境保全、人びとと自然の望ましい関係づくりなどであるが、今日においては、団体自体の持続可能性が問われているところが増えている。若いスタッフは定着せず、収入確保の道は細いままで、中心メンバーは年齢を重ねている。

こうした状況を踏まえて、現在取り組んでいるNORAのシゴトづくりの実践を紹介する。これらは、経営戦略やマーケティングの専門家ではないので、活動を通して経験的に学んできたことをもとにしている。

1)森づくりのリーダーを出すモリダス

市民参加型で森林づくり・里山保全をすすめてきた経験から、安全で楽しく価値のある活動には、現場に優れたボランティアリーダーがいることが必要と考えている。そこで、そうした専門性のあるリーダーの能力を評価・認定するとともに、リーダーの価値を発信し、専門職として社会に位置付けるために、2018年にモリダスという新団体を立ち上げた。現在は、研修・審査会を実施しながら、人材養成プログラムの体系化を図っている。

2)環境NPO運営スタッフ懇談会

日本で中間支援をおこなっている環境NPOは常勤職員が数人程度であることが多く、管理業務に忙殺されて本来取り組むべき事業に注力することが難しい。そこで、東京・神奈川・静岡・大阪・福岡の環境NPO運営スタッフ9人に声を掛け、知識や経験の共有と新しい協働を目指した懇談会を立ち上げた。それぞれが取り組みたい事業に集中できるよう効率的に、団体間でタテ(事業承継)+ヨコ(連携・グループ化)につなぐ仕組みを考えたい。そのために、現在はバックオフィス業務に関わる知の共有化をすすめている。

3)協同組合型プラットフォームの検討

3.11以降、筆者の行動圏である多摩丘陵では、新規就農者や社会的起業家が地域の自然資源を生かすような仕事をつくり出している。2018年に、そうした団体を紹介するウェブサイト「里山コネクトin 多摩・神奈川」をプロボノの協力によって制作したが、有効に活用できていない。しかし、このサイトの掲載団体には、個人事業や家族経営も少なくないので、2)と同様に知の共有という点でニーズはあるだろうし、地理的に近いことから協同事業にも取り組みやすいに違いない。

そこで、現在、こうした新しい参入者にとって使いやすいプラットフォームの構築を検討している。これは、中央集権的なシェアリングエコノミーのプラットフォームとは異なる、民主的でお互いに助け合い、利益を生みだすプラットフォームである。

第62回環境社会学会大会(オンライン)実践報告要旨, 2020年12月6日.

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