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「誰ひとり取り残さない環境論」をふりかえる

先月の5/25(火)、梨の木ピースアカデミー(NPA)で、私が企画・コーディネートを担当した全6回の講座が終了したので、この機会にふりかえっておきたい。

NPAは、昨年6月からスタートした市民向け講座である。
その時代認識と設立趣旨は、およそ次のとおりである。
すなわち、COVID-19のパンデミックは、従来の対面重視で学ぶ様式を変えるだけでなく、人びとがITを使いこなす力を身につけ、それまで障壁であった地域や国境、情報格差などのギャップを越え、新しい交流ネットワークを拡大し、変革の契機を生み出している。
NPAは、新しい市民運動のプラットフォームとして、だれもが参加でき、自身の場所にいながら、出会い、つながり、ともに学びあう空間として活用されることを期待する。

NPAの講座は、3ヶ月間に原則隔週開催の6回連続講座で1区切りとする。
第1期10コースは2020年6月から始まり、第2期20コースは2020年10月から年末年始をはさみ2021年1月に終わった。
私が関わり始めたのは、2021年3月から始まった第3期であり、コースを25に増やすので、そのうちの1つを担当することになった。
元同僚の堀芳枝さんから声を掛けていただいたのがきっかけであった。
共同代表の内海愛子さん、上村英明さん、全体コーディネーターの李泳采さんといったNPAの主要メンバーも、かつての同僚であって気心が知れている。
やると決まってからは、スムーズに事が運んだ。

実はNPAに関わる前から、年齢や学歴などの制限を設けずに学び合う場を自分でつくりたいと思って、周りに相談したこともあった。
ただ、参加費収入等で自立的かつ持続的に場を続けていく見通しが立ちにくいと思って、動き出せずにいた。
だから、掘さんから誘われたときは、渡りに船だと感じた。

NPAの看板講師陣には、高橋哲哉さん、浅井基文さん、内海愛子さん、桜井均さん、天野恵一さん、乗松聡子さんなど、錚々たるメンバーが揃っている。
また、各コースのゲスト講師も素晴らしく、たとえば、福島原発関係のコースでは、小出裕章さん、七沢潔さん、片山夏子さんなど、私も話を聞いてみたいという方々ばかりだ。
そうしたなかで、私は環境系のコースを新たに開設することになった。

今日、環境問題を扱う際には、気候変動(気候危機)や海洋プラスチック問題は欠かせないと思うし、実際に大学の授業で私はそうしたテーマも扱っている。
しかし、今回はあえて外すことにした。
その理由については、直接的に説明するのではなく、このコースのねらいを書いた文章を転載することで代わりとしたい。

このコースは、今日の地球環境の危機にたじろぐことなく、未来の環境-社会のあり方を、じっくり考えたい人に向けて開講します。さまざまな公害・環境問題の現場に詳しい研究者・実践者から、被害や対立の経験、問題の構造を学び、これまでの問題認識をアップデートします。日常生活からは見えにくいもの、仕方がないとされていることに対し、立ち止まって耳をすまし目を凝らし、感じる身体を取り戻します。そして、人が人として生きる権利(人権)を保障する観点から、人びとにとっての環境の意味や価値について理解を深め、考えるべき問題の本質は何かを問い、その問題を解決する方法について議論します。

担当するコース18のタイトルは、「誰ひとり取り残さない環境論―公害・環境問題の当事者性」とした。
SDGsの理念「誰ひとり取り残さない」を借用しているものの、最新の流行を追うための情報提供が目的ではなかった。
急いで多くを知るためではなく、立ち止まって深く考える場になればと思った。
そこで、私の環境社会学的な問題意識や調査研究上のネットワークを総動員して、なんとか形をつくることができた。
第3期のラインナップは以下のとおりであった。

[1] 3/2「福島原発事故に引き継がれる問題群」関礼子さん(立教大学)
[2] 3/16「水俣病に関わる葛藤と悩みを伝える」永野三智さん(水俣病センター相思社)
[3] 3/30「食品公害と親子―カネミ油症・森永ヒ素ミルク事件の被害」宇田和子さん(高崎経済大学)
[4] 4/27「ダム事業のこれから―建設予定地に生きる住民の視点」浜本篤史さん(早稲田大学)
[5] 5/11「NIMBYは地域のエゴなのか―迷惑施設の立地問題」土屋雄一郎さん(京都教育大学)
[6] 5/25「石垣島の環境と開発―空港・基地が奪う自然と文化」山里節子さん(いのちと暮らしを守るオバーたちの会)

どういう基準で、6回分の各テーマ・ゲストを決めたのかと問われると、誰もがわかるように答えることは難しい。
本コースの基本的なスタンスとしては、環境にかかわる問題を題材として取り上げながらも、定型的な「環境問題」のパターンとして処理することを拒むような話題をご提供いただける方にゲストをお願いした。
そうすることで、誰にとってのどういう問題なのかについて受講生が具体的に想像することから、自分の問題として引き受けて考える機会にしたいと考えたからである。
私は大枠としてタイトルとキャスティングに力を入れたが、あとは自らが講座に参加しながら、自分の問題意識と実践の方向性が明確になればと考えていた。
だから、何よりも自分がお話をうかがいたいと強く思えるかどうかが、ゲスト選考の基準だったとも言える。

第3期コース18の企画がまとまったとき、その内容については自信を持っていたし、よくぞ集まってくださったと嬉しかった。
しかし、どれだけ受講してくださるのかは未知数で、もっと言えば、自信がなかった。
それが蓋を開けてみると、全25コースのなかで指折りの人気のコースとなった。
この要因として、コース18の案内ページがSNSを通して数多くシェアされたことがある。
多くのフォロワーがいらっしゃる永野三智さんが、SNSを通して積極的に情報発信してくださり、非常にありがたかった。

毎回、ゲスト講師による話題提供のあとで、受講者の皆さんと話し合う時間を持った。
しかし、オンライン形式であることも影響して、受講者同士の関係をうまく作ることができなかったために、ゲストと1対1の質疑応答になりがちだった。
そこで第3期が終了した翌週に、このコースに関心を寄せてくださった方々同士で、打ち上げとふりかえりを兼ねて、受講して感じたことや考えたことなどを自由に話し合う機会を設けることにした。
どのくらいの人数が集まるかわからないけれど、皆さんがどのようにお聞きになったのかを、ぜひうかがいたい。

第3期が終わると1ヶ月の間を置いて、7月から第4期が始まる。
コースを担当するときに、1期分で終わらせるのではなく、少なくとも3期以上継続してほしいと言われていた。
とりあえず1期分を企画・運営してみて楽しかったが、自分の問題意識と実践の方向性を明確にするには、さらに数を重ねる必要性も感じていたので、これで終わりにするという選択肢はなかった。

5月中旬から、ゲスト候補者の方々と調整を進め、先日ようやく第4期のラインナップが固まった。
タイトルは、メインは変えずにサブを変えて、「誰ひとり取り残さない環境論―生きる場・生きた証が大事にされる社会へ」とした。

  • [1]7/13「オリンピック開発と現代都市―なぜここまで来たのか」
    荒又美陽さん(明治大学)
  • [2] 7/27「辺野古集落から見た普天間基地移設問題」
    熊本博之さん(明星大学)
  • [3] 8/10「集合的トラウマとしての原発事故、分断修復の試み」
    成元哲さん(中京大学)
  • [4] 8/24旧陸軍墓地に見る歴史的環境保存の課題
    小田康徳さん(NPO法人旧真田山陸軍墓地とその保存を考える会)
  • [5] 9/7「水俣病と向き合い、伝えるということ」
    吉永理巳子さん(一般社団法人水俣病を語り継ぐ会)×川尻剛士さん(一橋大学大学院・院生)
  • [6] 9/21「環境倫理3.0の展望―環境正義から捉える水俣・福島・辺野古、そして」
    鬼頭秀一さん(星槎大学)

第4期は、開催時期を踏まえ、7月にオリンピック開発、8月には戦争遺産をテーマにする回のほか、環境・社会問題の定番とも言える辺野古・福島・水俣を扱う回もあり、最後にはこれらを総合して考える回も設けた。
第4期のコースのねらいも第3期と同様で、テーマや地名が喚起するイメージから想像するのではなく、地域の現実をつぶさに見聞きし感じてきた方々からお話をうかがい、個別具体性のある人や地域を頼りに、問題を自らのもとへと引き寄せて考える場としたい。

第4期にお迎えするゲストの方々は、第3期に勝るとも劣らないと自信を持っている。
アーカイブ視聴も可能だが、双方向でコミュニケーションできるので、開講日となる隔週火曜日19~21時を空けていただけると嬉しい。
最後に、第4期も多くの受講生に恵まれることを祈って、今回のコラムを閉じる。

※6月1日に原稿を掲載後、6月14日に情報を更新した。

よこはま里山研究所のコラム

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